クラウス宰相の陰謀を暴き、王国に一時の平和を取り戻したリリィ。しかし、彼女には新たな使命が待っていた。影として国を支え続ける隠密姫として、彼女の次なる戦いが始まろうとしていた。
別れの時
王宮を後にする朝、リリィは静かな庭園でクラウディウスと最後の会話を交わしていた。新しい朝日が花々を照らし、二人を包む空気はどこか穏やかだった。
「これで本当に行くのか?」
クラウディウスは柔らかい声で問いかけた。
リリィは微笑みながら彼を見つめた。「ええ、もう決まったことだから。」
「君のことは誰も知らない。誰も君がしたことを称賛しない。それでも進むつもりか?」
クラウディウスは真剣な表情で問い詰めるように言った。
リリィは一瞬だけ沈黙し、それから静かに答えた。「私はただ、自分にできることをするだけ。それだけよ。」
「……そうか。」
クラウディウスは短く息を吐き、軽く肩をすくめた。「無事でいてくれ。それだけは願ってる。」
リリィは短剣を腰に差し直しながら軽く頷いた。「あなたも元気でね。」
密命を受けて
その日の夕方、リリィは王から密かに新たな命令を受け取った。執務室の中、王は彼女に視線を向け、厳かに語りかけた。
「リリィ、お前にはまた難しい任務を頼むことになる。だが、この国にとって欠かせない役目だ。」
リリィは静かに頭を下げた。「お言葉の通り、私にできる限りのことを尽くします。」
王は彼女に一通の文書を手渡した。それには隣国の不穏な動きと、国内の反乱分子の結託に関する情報が記されていた。
「今回の任務も、お前の姿を誰にも知られることなく成し遂げねばならない。成功しても、それを誇ることは許されない。理解しているな?」
王の声には重みがあった。
リリィは短く頷いた。「はい、分かっております。私はただ、この国を守る一助となるために存在しています。それで十分です。」
影としての旅立ち
リリィは夜明け前に王宮を後にした。静寂に包まれる城下町を歩きながら、彼女は自分の決意を心に刻んでいた。
「誰にも知られることなく、誰にも感謝されない。それでも、私がここにいる意味はある。」
リリィは自分に言い聞かせるように呟いた。
王宮の外れまで歩いたところで、彼女は一瞬だけ振り返った。そこにはもうクラウディウスの姿はない。それでも、彼が心の中で自分の無事を祈っていることを感じ取っていた。
「さようなら、クラウディウス。きっとまたどこかで。」
リリィは小さな声で呟き、再び前を向いた。
クラウディウスの思い
一方、王宮の塔からリリィの旅立ちを遠く見つめていたクラウディウスは、彼女の姿が見えなくなるまで目を離さなかった。
「本当に姿を消してしまうのか……。」
彼は手すりに寄りかかり、低い声で呟いた。
彼女がどんな危険な任務に挑もうとしているのか、それを知ることはできない。それでも、彼の心の中には確かな思いが残っていた。
「君のことを誰も知らなくても、俺だけは覚えている。無事でいてくれ。」
クラウディウスはそう呟き、静かにその場を後にした。
未来への第一歩
その夜、リリィは一人、隠密姫としての新たな使命の準備を進めていた。地図を広げ、周囲の状況を確認し、必要な道具を整える。
「これからが本当の始まり。私は影として、この国を支える。」
リリィは自らの短剣を握り締め、深い息をついた。
彼女の存在は誰にも知られることがなく、歴史に名を刻むこともない。それでも、リリィは自分が影の中で生きることを誇りに思っていた。
希望の影
リリィの旅立ちは、王国にとって希望の象徴であった。誰もその姿を知ることはないが、彼女の存在が国を支え続けるのは確かだった。
「隠密姫の物語は、これからも影の中で続いていく。」
夜空に浮かぶ星々が彼女の旅路を照らし、静かに未来への光を灯していた。