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第2話:転生完了!

 女神がタブレットを取り出し、細い指先でそれを操作していた。真っ黒な空間にスクリーンがいくつも浮かび上がってきた。


 それを驚きの表情で見ていると、女神がこちらにニッコリとほほ笑んできた。もし、彼女が13歳から17歳の容姿であったなら惚れていたかもしれない。


 女神は自分から見て、守備範囲外だった。そのことに心底、感謝してしまう。


 こちらの気も知らぬまま、女神がタブレットでスクリーンに映る数値を色々とイジリ回している。


「んーーー。ステータス調整が上手くいかないけど、肝心なのはスキルよね。斬耐性、突耐性、打耐性はもちろん、熱・冷耐性もしっかり付与ね♪」

「えっと……今、何を?」

「ん? あちらの世界に送った時に手違いでドラゴンのお腹の中にぽいっしちゃっても大丈夫なようにしてるのっ」

「チョマテヨ! 異世界ファンタジーって、そんなに危険な場所なの!?」

「怖いのはドラゴンだけじゃないわよっ。パパ活おじさんよりも性欲旺盛のゴブリンが蟻の群れのように集落を襲ってたりするの♪」

「異世界怖い!」

「んもう……あなたはそんな異世界でヒーローになるんでしょ?」

「お、おう……」


 自分はこれまで小説やゲームで少しだけ異世界ファンタジーなる世界に触れたことはある。それでもニワカと言われるレベルだと自負している。


 昨今のスキル山盛りのナーロッパと呼ばれる読み物やアニメについていけなくなってしまっていた。


 しかし、女神はそんなことじゃダメダメ~♪ とばかりに色んなスキルを付与してくれた。


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名前 :オミト・ダテ

モデル:ウルトラマン

Lv  :99

スキル:ウルトラ・チョップ(怪力)

    ウルトラ・キック(大地を割る)

    ウルトラ・ウイング(マッハ3)

    ウルトラ・光線(こんがり上手に焼けました~♪)

    ウルトラ・アイ(千里眼)

    ウルトラ・イヤー(地獄耳)

    ウルトラ・ハート(熱く滾るヒーロー魂)

耐性系:斬◎、突◎、打☆、熱◎、冷◎

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「とりあえず、こんなところかしら?」

「てんこ盛りすぎて、見てて混乱する……な?」

「これでも足りないくらいよー? 今時のチート付与なんて、もっとすごいのよ?」


 試しに女神が他の人物に与えたというチート付与を見させてもらった。正直、眩暈を覚えるレベルだった。


 自分に付与されているスキルなんて、生易しいレベルだった。


「ハーレム化、奴隷化、メガネっ娘化……そんなスキルいるのか?」

「生前、モテない引き籠りニートがコンビニに向かう際に絶命しちゃって……童貞卒業できなかったのが悔しすぎでぶひぃ! って涙ながらに語られちゃった♪」

「……そいつが送り出した異世界じゃないよね? 俺が向かう先の異世界」

「大丈夫っ! 全然、別の世界よっ! 魔王と勇者が血みどろの戦いを繰り広げている世界よ!」

「……血みどろ?」

「手足がちぎれるなんて当たり前~♪」

「グロだめ絶対!」

「そこはヒーローのあなたがどうにかしなさい?」

「た、確かに?」


 女神がタブレットを再び操作し始める。すると、自分の目の前に光で出来た門が出現した。新たな世界に繋がるゲートだということを感じ取る。


 ゲートから視線を外して、女神の顔を見た。彼女はにっこりとほほ笑んでいる。


「行ってらっしゃい。わたくしのヒーロー」

「ああ、行ってくる。俺は世界を救うヒーローになってくる!」


 自分の身体が光に包まれていく。伊達臣兎だておみとという人間が変化していくのがわかる。


 胸が高鳴った。今度こそ、JCやJKのシン・ヒーローに俺はなる。その言葉を胸に刻んで、光の玉のまま、ゲートを潜り抜けた……。


◆ ◆ ◆


 光の玉が空に浮かび上がっていた。それが土の地面へと降りていく。すると、次の瞬間には2足歩行の生物へと変わっていく。


 白いブリーフパンツ。それをサスペンダーでしっかり固定している。さらには紳士であることを忘れないように蝶ネクタイも装着していた。


 頭に被っているインディアンハットは羽の代わりにトランクスが風でたなびいていた。


 まさに伊達臣兎だておみとは新しい姿を手に入れた。それはどこからどう見てもヒーローの姿には見えなかった……。


◆ ◆ ◆


「ここが異世界ってやつか。ん? おあつらえ向きに集落が目の前にあるな?」


 オミトはブーツで土の地面をしっかりと踏みながら、その集落へと向かう。困っているJCやJKがきっといるはずだ。


 彼の直感がそう囁いていた。人口1000人くらいの集落であろう。集落の入り口には衛兵すら立っていない。


 ズンズンと力強く集落の道を進んでいく。しかし、ここで頭の中にハテナマークを浮かべることになった。


(あれ? 人々が俺の姿を見て、及び腰になっているような……ははっそんなバカなことがあるか。俺は立派なヒーローだぞ?)


"この時点ではオミトは自分の姿がどうなっているのかわかっていません。わたくし、困っちゃいました~"


 オミトはにこやかに15~17歳くらいの少女にほほ笑んだ。次の瞬間、その少女の顔が真っ青になった。こちらも驚くしかない。


「ど、どうしたんだ!?」

「いや……いやーーー!」

「待ってくれ!」

「近寄らないでっ!」


 完全に拒否された。差し出そうとした手を引っ込めるしかない。どうしたものかと思い悩んでいると、いつの間にか10人くらいの20代の青年たちに囲まれてしまうことになる。


「てめえ! モンスターのくせになんで堂々と集落に入り込んでいるんだ!」

「な、何を言っている! この姿のどこがモンスターなのだ!」


"オミトくん……まだ気づいてないんだ。これ、すっごく教えづらい"


 自分を囲む青年たちから敵意を感じた。それと同時にどこからか自分を憐れむような視線も感じた。


 混乱するしかなかった。自分はヒーローに生まれ変わったはずだ。なのに、村人たちは自分を追い払おうとしてきた。


 手にくわすきを持ち、その鋭い切っ先をこちらへと向けてきている。


「まずは話し合おう!」

「何が話し合おうだ! 少女に乱暴しようとしやがったくせに!」

「誤解だ! 俺は紳士だぞ!?」

「パンツ一丁に蝶ネクタイ。さらには頭にトランクスをたなびかせてんだぞ!? お前、いったい、どんなモンスターなんだ!」

「はぁ!? 俺がそんな変態な恰好……してるんだけどぉ!?」


 オミトは頭を前後左右に振り回す。村人に指摘されたままの格好をしていた。これのどこがヒーローなのだと、自分自身にもツッコミを入れたくなってしまうほどの変態だ!


"あっ、ようやく気付いたみたい。さてと……わたくしは次の子を転生させないと。オミトくん、頑張ってね~♪"


 自分に向かって慈悲を注いでくれていた存在がどこかへ行ってしまったという感覚に襲われた。


 急に心細さを感じた。右も左もわからない世界でひとりぼっちだという怖さが心を支配していく……。


 だが、それでも胸の鼓動だけはしっかりとしていた。正直に言うと、心が折れかけていた。全身から力が抜け落ちていくだけかと思われた。


 だが、それでも熱いハートがどんどんどん! とリズムを取っている。幻聴が聞こえてきた。


 なんとも自分に勇気を与えてくれる歌が耳に届いてきた!


「パンパン、パンツマン。勇ましいキミは~♪」

「お、おい! 何を言ってやがる!」

「例え、膝に受けた矢傷が痛んでも~♪」

「だ、黙りやがれ!」

「JCとJKのパンツだけが友達さ~♪」


 オミトはこの世界で天涯孤独の身だった。だが、そんなことはどうでもいいと思えるくらいに力が沸き上がった。


 シュオンシュオン……という音が耳に届いてくる。全身から溢れる力がオーラとなって、自分を優しく包み込んでくれている。


 村人たちがそんな自分を恐ろしいと思ったのか、こちらに向けてくわを振り下ろしてきた。


「ふんっ!」


 気合一閃。オーラを外側へと放つ。そうするだけで、こちらに攻撃を仕掛けてきた青年がくわごと、吹っ飛んだ。


 家の前に積まれていた樽の山に背中から突っ込んだ。それを合図に「てめーーー! 許さんぞー!」と他の青年たちがこちらに襲いかかってきた。


 だが、彼らに向かって軽く手刀で空間を斬ってみせた。猛烈な衝撃波が空間の切れ間から発生する。


 他の青年たちは衝撃波に揉まれて、家々へと頭から突っ込んでいった。


「ふぉぉぉ……! 力がミナギル! 俺、最強!」


 どうしようもない破壊衝動が身体の奥底から生まれてくる。ズシン、ズシンと一歩ずつ地面を踏み鳴らす。


 自分の足元には先ほどの少女が腰を抜かしたままだった。自分はヒーローである。彼女に向かって、そっと手を差し伸べる。


「そこまでよ! パンツマン!」

「……パンツマン? 誰のことだ!?」

「あなたのことよ!」


 こちらは今にも泣きそうになっている少女を介抱しようとしただけだ。だが、さらなる敵意が自分に向けられた。


 そうしてくる相手にのっそりと身体を動かして、真正面から対峙してみせた。


「うほっ! これはすごい美少女! 名前は!?」

「私の名はアリス。たまたまこの集落に滞在していたの」

「うんうん! それで!?」

「……鼻息が荒くて、気持ち悪いっ」

「がーん! そんな……俺はヒーローなんだぞ!? ヒーローに向かって、そんな言い方、あんまりだーーー!」


 まるで年頃の娘に「お父さんのパンツと一緒に洗濯しないでって言ったじゃない!」と言われたような気がした。


 それほどまでのショックを与えてくるほどに、今、目の前にいる美少女は可憐でありながら、覇気を纏っていた。




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