「離してよ! もうオジサンの話なんて聞かないっ!」
タニアは顔を真っ赤にさせて怒鳴る。だが、ジャックスはそんな彼女の怒りなど気にも留めない。
「まぁ落ち着けって。俺はギルド拠点についても相談を受けている。お前の家は今回の拠点に適していると判断したから、この話を持ち掛けた」
「え?」
ジャックスの思わぬ言葉にタニアは暴れるのをやめた。そして、心底驚いたように目をパチパチさせる。
「どういうこと?」
ジャックスは勿体ぶったように咳払いをしてから口を開いた。
「お前の家は街から外れているんだろ?」
「うん。そうだけど」
「今回はそういうところを探していたんだ」
「どうして? ギルドって人が多く集まる場所にあった方がいいんじゃないの?」
「普通はな。だが、このギルドは違う」
タニアは訳が分からないと眉を顰める。ジャックスは、そんなタニアの反応を予想していたかのように笑みを浮かべた。そして少し声を低くして、ようやく核心に触れる。
「このギルドは諜報専門のギルドになる。だから人が集まるような場所ではなく、むしろ人の目に触れないような場所に拠点を構えた方がいいんだ」
「諜報……専門?」
タニアはジャックスの言葉を反芻する。そして、その意味を理解して顔を青ざめさせた。
「それって……スパイってこと?」
「そうだ」
恐る恐る問うタニアに、ジャックスも真剣な表情で答える。その答えを聞いてタニアは絶句するしかなかった。そして、しばらく沈黙が続いた後、ようやく口を開いた彼女は震える声で呟く。
「そ、そんな所でアタシ働くの?」
タニアは怯えたようにキョロキョロと辺りを見回した。その様子を見たジャックスは苦笑する。
「別に諜報活動に参加しろと言っているわけじゃない。タニアは普通に受付業務をしてくれればいい」
「そ、そっか」
ジャックスの言葉にタニアは安堵の溜息を漏らした。
「だが……、そこがギルドの拠点であることは周囲に悟られたくない」
「なるほど。諜報員の人たちはアタシの家に訪ねてきた風を装うってことね」
「まぁ、そういうことだな」
タニアは少し考えた後、決意の籠もった声で宣言した。
「わかった! ウチ使っていいよ」
その強い眼差しにジャックスは一瞬面食らった後、豪快な笑い声を上げた。そして、タニアの頭をガシガシと撫でる。
「お前、肝が据わってるな。俺はそういう奴は嫌いじゃないぞ」
「ちょっと! 髪が乱れる!」
文句を言いながらも、タニアはどこか嬉しそうだった。