冒険者。それは、誰もが憧れる存在。ある時は凶暴なドラゴンを討伐し、また、ある時は依頼人の困りごとを解決する。冒険者を目指す者は数多いが、危険が伴うために資格制である。冒険者の資格を得るには、体力はもちろん、思考力や柔軟な対応力が求められる。そして、資格を得た者のみが冒険者として活動できる。ただし、すべての冒険者が無事に生還できるわけではない。そして、今日も新たな冒険者がクエストに挑戦すべく、冒険者ギルドを訪れるのだった。
俺の名前はマイク。資格を得て、今日から冒険者として活躍する新米だ。
昨日は、武器屋を巡って装備を整えてきた。朝日を受けて銀色に輝く長剣にドラゴン皮の盾。ドラゴンの皮といっても、もちろんF級ドラゴンのものだ。どちらも値段は高かったが、命を守るためにはお金をケチるわけにはいかない。
「お、その装備からするに新人だな」
ギルドの入り口で見知らぬ人に声をかけられた。彼は、背中に使い込まれた弓矢を装備し、身体には数多くの傷。間違いない、歴戦の冒険者だ。
「ええ、そうです。記念すべき冒険者デビューの日です!」
「さすが新人、元気がいいな。だが、元気だけではクエストをこなすことはできない。モンスターを倒すには、腕力だけじゃダメだ。その場での対応力も問われる。……って、資格試験で勉強済みか。さて、お前に重要な話がある」
「重要な話……ですか?」
先ほどまでと違い、猛者は小さな声で話しだす。まるで、誰かに聞かれるとまずいかのように。
これは、命に関わる重要な情報を教えてくれるに違いない。
「いいか、よく聞け。お前が所属したギルドだが、受付嬢は日替わり制だ」
「日替わり制の受付嬢……?」
「ああ、そうだ。彼女たちは数多くの冒険者を相手にし、膨大な書類を処理する。だから、休養日が必要なんだ。そこまでは普通なんだが……。彼女たちは曲者揃いだ。クエストは受付嬢をどう突破するか、そこから始まる。まあ、百聞は一見にしかず。ギルドの受付カウンターに行けば、どういうことか分かる」
猛者は、俺の肩を軽く叩くと「受付嬢ガチャに勝て。幸運を祈るぜ」と、力なく言う。
受付嬢ガチャ? 日替わり制だというだけでガチャ扱いするのは、彼女たちに失礼だ。
だが、彼の死んだ魚のような目つきは気になる。
「大丈夫、なんとかなるさ。……多分」
期待に胸を膨らませながら、俺はギルドのドアを開けた。
――受付嬢ガチャ地獄の、一日目が始まるとも知らずに。