今から、皆様にお話しするのは、私が大学生の時に経験した事です。
当時、大学と旅行会社の提携により格安で沖縄県に三泊四日で旅行出来るプランがあったので、それに友人数名と参加することにしました。
初日から二日目にかけては数年前の火災によって、現在は復興作業中の首里城を観光したり、海で泳いだりと楽しい時間を過ごしました。
そして、三日目には戦死者を弔った〝ひめゆりの塔〟を訪れました。
施設内には亡くなられた方々の写真や名前が展示されており、それを見た私は自分なりに戦争の悲惨さを感じたと同時に、犠牲者の方々に(どうか安らかにお眠り下さい)と心の中で祈りを捧げたのは、昨日のことのようにハッキリと覚えてます。
旅行最後の夜だったので、ホテルの部屋で友人達と宴会をしていました。当時は下戸だった私はソフトドリンクで彼らに付き合っていましたが、持ち込んだ飲料が無くなってしまったので、追加分を買うために一人部屋を出ました。
当時、我々が宿泊していたのは、一番端の部屋であり、ジュースの自販機は反対側の廊下奥に設置されており、その手前には階段がある構造になっています。
廊下に出た私は、自販機前にある階段の踊り場から、
最初は(何だあの人?)と思いながらも、平静を装い自販機に向かったのですが、その人物と私の距離が近づくにつれて、違和感に気がついたのです。
宿泊施設なので、当然ながら廊下は明々と照明で灯されていたのですが、階段の踊り場から顔を半分だけ出してる人物の周囲だけが暗くて、顔が見えないのです!
更に距離が近くなると、充血してるような目だけは認識出来ました。
しかし、他の部分はまるで墨汁を被ったかのように、真っ黒です。
私は、(何こいつ!?)と不気味に思いましたが、まるで足が何者かによって操られてるみたいで、自分の意思に反して歩みを止められませんでした。
そして、私と人物の距離が僅か数センチくらいまで縮まった時、その人は急に顔を引っ込めたのです!
私は、反射的に階段の踊り場を覗きましたが、そこには誰の姿もありませんでした。
その人物が顔を引っ込めて、私が踊り場を覗くまでは1、2秒程度しかありませんでした。
たとえ、どんなに俊足の持ち主だとしても、この僅かな時間で煙のように姿を消すことは、生きてる人間には不可能です!(今の人物は幽霊だったのか!?)と思った私は、飲み物も買わず友人達が酒盛りを続けてる部屋に逃げ帰りました。
私は混乱しながらも、彼らに今体験したばかりの出来事を必死に伝えましたが、誰一人まともに取り合ってくれません。
繰り返しになりますが、当時私は酒は一滴も呑んでないので、決して酔ってませんでした。
帰りの飛行機の中で、私は昨夜見た人物は、ひめゆりの塔に祀られていた中の一人で、(この世に未練があって、私に何かを伝えるために現れたのではないだろうか?)と考えていましたが、真相は今も謎に包まれたままなのです……。