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第5話 エピローグ:シンデレラのその後



 青く澄んだ空の下、レガリア王国の城はどこか童話に出てきそうな美しさを湛えていた。ここで新たな生活を始めて数カ月。麻衣はまだ時折、自分が本当にこんな場所にいるのかと驚くことがあった。


 けれど、それが現実だと実感する瞬間がある。ふとした日常の中、隣にエリオットがいること。そして彼がどれほど自分を愛し、支えてくれるかを感じるたびに、麻衣は自然と笑顔になるのだ。


1.新生活と麻衣の成長


 最初はすべてが異国のものに思えた。王族の習慣、格式ばった挨拶、豪華な食事や舞踏会――ブラック企業で過ごしてきた頃の生活とはまるで別世界だ。そんな中でも、麻衣は持ち前の適応力と真面目さで新しい環境に溶け込んでいった。


 エリオットは王族としての役目をこなしながらも、麻衣が一人で悩まないよう常に目を配っていた。ある日、麻衣が外国語の勉強に行き詰まり、落ち込んでいる姿を見つけた彼は、にこりと笑って言った。


 「僕だって君の母国語を学ぶのに苦労したんだよ。一緒に勉強しようか?」


 「えっ……エリオットさん、そんな時間ありますか?」


 「君のためなら、どんな時間だって作るさ」


 その言葉に麻衣は驚きつつも嬉しくて、エリオットがいかに自分を大切に思っているかを再確認するのだった。


2.舞踏会での婚約発表


 数カ月後、レガリア王宮で開かれた盛大な舞踏会。その場でエリオットと麻衣は正式に婚約を発表した。世界中から集まった王族や貴族、そして報道陣が見守る中、エリオットは堂々と宣言する。


 「私、エリオット・レガリアは、ここに白井麻衣を生涯の伴侶として迎えることを誓います」


 その言葉に会場中から拍手と歓声が湧き起こった。麻衣は慣れない視線に少し緊張していたが、エリオットがそっと手を握り、「大丈夫だよ」と囁いてくれるだけで不安が消えていった。


 祝宴の途中、エリオットが微笑みながらふざけたように麻衣に言う。


 「これで君は僕から退職するなんて言えなくなったね。だって退職なんか許さない。だから退職金もなしだ」


 麻衣は思わず吹き出しながらも、彼の瞳を見つめ返し、茶目っ気たっぷりに答える。


 「そんなこと考えてませんよ。年金をもらうまで一緒にいますから」


 二人のやりとりに周囲の人々も思わず笑みを漏らす。麻衣がこの場に自然と馴染み、エリオットの隣で輝いていることが、誰の目にも明らかだった。


3.星空の下での誓い


 舞踏会の後、麻衣とエリオットは城の庭へと抜け出した。夜空には満天の星が輝き、レガリアの澄んだ空気が二人を包み込む。


 「星が本当に綺麗ですね……。こんな景色、初めてです」


 麻衣が感嘆の声を漏らすと、エリオットは微笑みながら彼女の肩を抱いた。


 「これからは、どんな景色も君と一緒に見るんだよ」


 麻衣はその言葉に胸が熱くなる。これまで必死に働いて自分を見失いかけていた日々。そしてエリオットとの出会いを経て、やっと「自分の幸せを考える」という選択をしたこと。すべてがこの瞬間に繋がっているように感じられた。


 「私、本当に幸せです。でも、エリオットさん……一つだけお願いがあります」


 「何だい? 君が望むことなら、何でも叶えてみせるよ」


 「私、いつかエリオットさんの助けになりたいんです。いつも守られるだけじゃなくて、私もあなたを支えられる人になりたい……」


 彼女の真剣な言葉に、エリオットは少し驚いたようだったが、すぐに優しく微笑んだ。


 「君はもう十分、僕を支えてくれてるよ。……でも、そう思ってくれるのは嬉しい。これからも二人で一緒に成長していこう」


 「はい!」


 二人は見つめ合い、満天の星空の下で静かに未来を誓った。


4.未来への一歩


 シンデレラはただ王子に助けられるだけの存在ではない。自分自身で未来を選び取り、共に歩むパートナーとして隣に立つ。麻衣はそうやって新しい人生の一歩を踏み出した。


 レガリアでの生活はまだ始まったばかりだ。異国の文化や慣習、王族としての責任は、これからも麻衣を試練に立たせるだろう。だが、それでも彼女は迷わない。隣にエリオットがいて、自分を信じてくれる限り、どんな未来もきっと乗り越えられる。


 「さあ、僕たちの物語はこれからだね」


 「はい!」


 その声は星空に吸い込まれ、静かな庭に響き渡る。シンデレラの物語は、ここで終わるのではない。彼女の新しい旅路は、今まさに始まったばかりなのだ。



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