ブラック企業に身を削られ、彼女の人生はほとんど暗闇に閉ざされていた。だが、ある夜の路上で倒れたところを拾った金髪碧眼の王子、エリオット・レガリア。彼との出会いが、白井麻衣(しらい まい)の運命を大きく変えつつあった。
エリオットが放つ「終身雇用」や「永久就職」という言葉。それは一見、日本のビジネス用語に対する誤解にも思えたが、実は“永遠を共に過ごそう”という真剣な愛のメッセージだった。麻衣はそれを一度は断りながらも、彼の揺るぎない思いに触れ、自分の幸せを考え始める。もう一度、きちんと自分の人生に向き合うために――。
そして今、この第四章では、麻衣がついに大きな決断へと踏み出す瞬間が訪れる。ブラック企業を辞める決意と、エリオットのそばで生きる未来。その二つを選び取るまでの過程は、苦しくも希望に満ちた時間だった。
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1.決断の朝――「自分の幸せを考えてもいい」
ホテルの一室。朝の陽ざしが差し込むなか、麻衣は鏡の前に立っていた。長い髪をときながら、昨夜エリオットにかけられた言葉を何度も思い出す。
「君が幸せになることを、僕は望んでいる。だから、君も自分の幸せを考えていいんだよ」
その言葉を聞いたとき、麻衣は強い衝撃を受けた。ブラック企業で働いていた頃の彼女は、「幸せ」という単語すら口にする余裕などなかったからだ。上司や取引先からの厳しい叱責、延々と続く残業、休日出勤。過労で倒れても「自己管理が足りない」と責められ、次の休みも取れない。
(私が幸せを求めちゃいけないような気がしてたんだよね、ずっと……)
麻衣は顔を上げ、鏡の中の自分を見つめる。過労で憔悴しきっていた頃と比べ、いまは頬の色も健康的に戻ってきている。これは、エリオットが手配してくれた医者や栄養管理が行き届いた食事、そして“自分を大切にしてもいい”という安心感があったからだと気づく。
(私、変わりたい。ブラック企業に戻って同じ苦しみを繰り返すのはもう嫌だ。あそこに私の幸せはない)
会社からは先日も「いつまで休んでいるつもりだ」「自己都合退職でいいのか」と脅しに近い連絡が入っていた。麻衣はそれを聞き、ひどい罪悪感と恐怖に苦しめられたが、同時に「きっぱり辞めよう」と決意を固めたのも事実だ。もう戻る理由が見当たらないし、それ以上に自分を消耗させる環境に耐える意味がわからない。
(自分の幸せを考えてもいい。そう言ってくれた人がいる。だったら、私はどう動くべきなのか。――決まってる。ブラック企業を辞めるんだ)
決意を固めると、胸に不思議な高揚感が湧いてくる。これまで上司や同僚に「迷惑をかけるかもしれない」とか「大変な状況に陥るかもしれない」といった不安ばかり抱えていたが、今はそんな常識に縛られる必要はないと感じる。なぜならエリオットがいつでも支えてくれると言ってくれているから。そして、彼の言葉がなければ自分はずっと暗闇から抜け出せなかっただろう。
小さく深呼吸をして、麻衣は笑みを浮かべた。これほど心が軽くなるなんて、自分でも驚きだった。今はただ、エリオットにきちんと「辞める決意をしたこと」を伝え、それから“これから先”について話し合いたい――そう思うのだ。
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2.ブラック企業を辞める決意――最後の電話
午前十時。いつものようにブラック企業の上司から電話がかかってきた。おそらく「早く復職しろ」という催促だろう。だが、麻衣の心はすでに定まっている。通話ボタンを押すと、上司の怒鳴り声がすぐに耳に飛び込んできた。
「白井か? いい加減にしろよ。お前、いつまで休む気だ? こっちは人手不足なんだよ。新人の指導も山積みで、お前がいないと……」
「すみません。もう辞めさせていただきます。自分の幸せを考えた結果、復帰はできません」
上司の言葉を遮るように、麻衣ははっきりと告げる。今までなら絶対にできなかったことだ。電話の向こうで相手が一瞬言葉を失った気配がわかる。
「は……? 何言ってんだ。自己都合退職でいいのか? それなら引き継ぎはどうするんだ?」
「引き継ぎは、ほかの人にお願いしてください。私が残業続きで作ったドキュメントもすべて社内共有していますし、これ以上私が同じ業務を続けていたら、また倒れて迷惑をかけることになります。なので、今後は私を当てにしないでください」
喋りながら、手は震えている。だが、胸の奥にははっきりとした意志がある。もうこれ以上、会社に自分の人生を捧げるわけにはいかないのだ。すると上司は怒りをあらわにし、まくし立てる。
「ふざけるな! 会社をなめてんのか? お前ごときが勝手に辞められると思うなよ。損害賠償だってあり得るんだぞ?」
いつもの脅し文句だ。以前なら萎縮して何も言えなかったが、今の麻衣にはエリオットの存在がある。彼が「何かあれば法的にもサポートすると言ってくれた」――そう思うと、妙な勇気が湧いてきた。
「それなら、訴えるなり何なり、お好きにどうぞ。私、もう体を壊す前に退職するって決めたので」
淡々と答えると、上司は口ごもった。そして最終的には悪態をついて電話を切られる。長年仕えてきた会社との関係が、こんな形で終わるとは想像していなかったが、不思議と後悔はなかった。これが自分のための正しい選択だと、はっきり感じられるからだ。
「……終わった……」
スマートフォンを手から離し、ふうっと安堵の息を吐く。これまでの人生で最も大きな決断かもしれない。心臓の鼓動はまだ早いが、胸の奥に心地よい解放感が広がっていた。
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3.正式にエリオットの元で働く――彼が用意した新しい道
部屋を出て、少し散歩がてらにホテルの廊下を歩いていると、エリオットの執事であるカルロスに出会った。カルロスは麻衣の顔色を見て、穏やかに笑みを浮かべる。
「お顔がすっきりしておられますね。何かご決断なさったのでしょうか?」
「……はい。私、会社を辞めることにしました。ずいぶんと悩んだんですけど、結局、あそこにいる限り自分が壊れてしまうだけなので……」
その言葉に、カルロスはうなずきながら「エリオット様もお待ちですよ」と返す。どうやらエリオットはラウンジで軽く打ち合わせをしているらしい。麻衣は緊張を覚えつつも、「行ってきますね」と笑顔で告げ、ラウンジへ向かった。
そこでは、エリオットが数名のボディガードと地図らしきものを眺めながら話していた。やがて彼らが退室すると、エリオットは麻衣に気づき、柔らかな表情で手招きをする。
「マイ、ちょうどよかった。話したいことがあるんだけど……。その前に何だかすっきりした顔をしてるね?」
麻衣は一瞬戸惑ったが、意を決して答えた。
「会社、辞めました。――正確には電話で辞意を伝えただけですけど、もう戻るつもりはありません」
エリオットの瞳が大きく見開かれ、それから嬉しそうに光る。彼は立ち上がって、まるで抱きしめたいのを我慢するかのように手を伸ばしかけて止めた。
「そっか。君が自分で決断したんだね。……おめでとう、でいいのかな」
「ありがとうございます。まだ心配もあるけれど、でも後悔はしてません。これからどうするかは……あなたと相談しながら決めたいなって」
照れくさそうに言う麻衣に、エリオットは笑みを深め、意を決したように口を開いた。
「もちろん! 実は、君がどう動くにしても対応できるようにしておこうと思って、すでにいくつか手配をしていたんだ。今までは“観光案内役”という仮の名目で君を雇っていたけど、これからは正式に“僕のパートナーとしての仕事”を提供したい」
「パートナーとしての仕事……?」
麻衣が首をかしげると、エリオットは少し得意げにタブレットを取り出し、画面を見せながら説明を始める。
「母国レガリアでは、王族が海外から人を招いて文化交流をする例は少なくないんだ。僕は日本文化に非常に興味を持ってるし、レガリアにもそれを広めたい。だから“文化交流担当”みたいなポジションで、君を正式に王宮に迎え入れようと思う。もちろん、それだけじゃなくて……君には僕のそばでいろんな役目をしてほしいけどね」
その言い方から察するに、“役目”の中にはパートナー、つまり“将来の伴侶”という要素も含まれているはずだ。麻衣は少し顔を赤らめながら、「私、そんな大役をこなせるかしら……」と呟く。
エリオットは笑顔で首を振る。
「できるさ。君はブラック企業でずっと働いてきたんだ。それに、僕がしっかりサポートする。まずは日本語の文献や情報をレガリアに伝える仕事を手伝ってもらいたい。僕だけだと見落としてしまう細部を、君ならサポートできると思うんだ」
「……わかりました。私でよければ、ぜひやらせてください。正式に、あなたの元で働かせてください」
そう答える麻衣の声は、もう迷いを含んでいなかった。ここまで言ってくれる人に対して、自分ができるのは全力で応えること。そして何より、心の底から「やってみたい」「一緒に未来をつくりたい」と思えるのだ。
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4.新たな旅立ち――母国レガリアへ
エリオットが帰国を決めたのは、それから数日後のことだった。もともと長期滞在の予定はなく、彼の行動を許可しているレガリアの王室からも「そろそろ戻れ」という招集がかかっていたらしい。
しかし、麻衣がブラック企業を退職し、正式にエリオットの元で働くと決めたことで、二人の間にもう障害はなかった。もっとも、麻衣自身は異国へ移り住むことに不安を抱いているが、それでも一緒に行こうと決断できたのは、エリオットの揺るぎない愛情とサポートの約束があったからだ。
出発当日、成田空港の出国ゲート。エリオットのボディガードたちや執事のカルロスが周囲を囲み、王族用のVIP対応を手早く済ませる。麻衣はその様子を見て圧倒されるが、エリオットが常に隣にいて「大丈夫だよ」と微笑んでくれるおかげで落ち着きを取り戻せる。
大きなスーツケースには、麻衣の私物がぎっしり詰められている。彼女はもともと大した荷物は持っていなかったが、日本を出るにあたって最低限の家財や思い出の品を運び込んだ。それすらもエリオットが「必要ならいくらでも送ればいい」と言ってくれているが、麻衣自身は「まずはこれだけで」と遠慮していた。
(本当に私、行くんだ……海外、しかも王族のいる国に。考えてみれば無謀だけど、決めたからには腹をくくらなくちゃ)
出国審査を済ませた後、二人は搭乗ゲートの近くにあるVIPラウンジへと通される。周囲の乗客たちが興味津々にエリオットを見ているが、ボディガードが壁のようにカバーしてくれるため、近寄ってくる人はいない。
そんな中、エリオットがこっそりと麻衣の手を取る。彼の手は温かく、しっかりと麻衣の指を包み込んだ。
「いよいよだね。緊張してる?」
「そりゃあ、もう……。私、海外旅行すらほとんどしたことないのに、いきなり王族の国に行くなんて……」
苦笑しながら答える麻衣を、エリオットは愛おしそうに見つめた。
「大丈夫。僕がいるし、カルロスもいる。初めは戸惑うだろうけど、少しずつ慣れていけばいいさ。僕の部屋――いや、僕たちの部屋、というべきかな――そこもちゃんと用意してあるからね」
「……僕たちの部屋……」
そのフレーズに思わず顔が熱くなる。まだ正式に結婚という形をとったわけではないが、実質的には“そういうパートナー”として迎えられるのだ。王族の家に“部屋”を用意されるなんて、自分の人生では想像もしていなかった。
「さあ、搭乗の時間みたいだよ」
アナウンスが流れ、ボディガードや空港スタッフが一斉に動き始める。エリオットは握っていた手を離さずに、麻衣をエスコートするように歩き出した。彼と並んで歩くと、自分まで貴族になったような錯覚を覚えるほど、周囲からの視線を感じる。けれど、それはもう恐ろしくはなかった。だって、これが自分で選んだ“新しい人生”のはじまりなのだから。
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5.飛行機の中で――「永久就職しないか?」
搭乗口を通り、ファーストクラスの座席に案内されると、麻衣はその広さと豪華さに圧倒された。リクライニングシートどころか、半個室のようになっていて、足を伸ばしても余裕がある。ブラック企業で安月給に喘いでいた頃の自分とは、まるで別世界に来てしまったようだ。
隣の席にエリオットが腰を下ろす。慣れた手つきでシートベルトを着け、そのあとゆっくりと麻衣のほうに体を向けた。
「ふふ、びっくりした顔してる。そりゃそうだよね。僕も王族扱いでいつも飛行機に乗ってるわけじゃないけど……母国の事情を考えると、どうしてもこうなるんだ」
「確かに、こんなの初めてで……。なんだか緊張します」
麻衣が笑うと、エリオットもつられて微笑む。離陸まではまだ少し時間があるらしく、機内アナウンスが英語や日本語で流れている。そんな中、エリオットはすっと麻衣の手を取り、目を合わせて言葉を紡いだ。
「さて、長いフライトになるけど……その前にひとつ、ちゃんと言っておきたいことがあるんだ」
「な、何ですか?」
また心臓が早鐘を打ち始める。彼が何を言おうとしているかは、薄々予想がついた。
「マイ、改めて聞くよ。――永久就職しないか?」
“永久就職”。それは以前、彼が無邪気に発した「終身雇用」の進化形ともいえる言葉。実質的に“僕と結婚してくれ”という意味なのだと、麻衣はわかっている。
「確かに、君がさっき正式に僕の元で働くと言ってくれた。そして母国に一緒に行くとも……でも、それだけじゃ足りないんだ。僕はただの上司や雇用主じゃなく、君の人生のパートナーでいたい。だから、改めてプロポーズさせてほしい。僕と――一緒になってほしいんだ」
その声はいつもより低く、かつ熱っぽく響く。飛行機のエンジン音や周囲の雑音がかすんで聞こえるほど、麻衣の意識はエリオットに集中していた。
「私なんかで……本当に大丈夫なんでしょうか? 王族って、いろいろな責任があるんですよね? 私、まだ何もわかってなくて……」
最後の抵抗ともいえる問いかけ。だが、エリオットは迷わず首を振る。
「大丈夫さ。君はもう僕を支えてくれてる。ブラック企業を辞める選択をして、自分の人生を取り戻したじゃないか。それだけの強さがあるなら、王族としての生活にだって馴染めるよ。僕も全力でフォローする」
麻衣は唇を結び、深呼吸をする。そして、ふわりと微笑んだ。
「わかりました……。ぜひ、お願いします」
短い答え。だが、それは麻衣が培ってきた全ての不安を乗り越え、エリオットへの信頼に身を委ねる決心を示す言葉だった。エリオットの瞳が喜びに輝き、彼は思わず麻衣の手にキスを落とそうとするが、機内という場を意識してか寸前で控える。
「ありがとう……。君が僕を受け入れてくれて、本当に嬉しい。永久就職――一生そばにいてくれるんだね」
「あ……はい。そう、ですね……」
面映ゆい感覚に頬が熱くなる。周囲にはボディガードの視線もあるが、彼らは空気を読んで何も言わない。こうして、二人は旅立つ飛行機の中で、決定的な言葉を交わしたのだ。
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6.未来へ向けて――飛行機の離陸と共に
ほどなくして機内アナウンスが入り、シートベルトの着用が促される。エリオットは名残惜しそうに麻衣の手を離しながら、「離陸したらゆっくり話そう」と囁いた。麻衣も頷き、シートに身を預ける。
機体がゆっくりと滑走路を移動し始めると、麻衣は窓の外を見た。まだ慣れない飛行機の振動に心がざわつくが、エリオットと共に行く覚悟を決めたことで、不思議な安堵感が胸に広がっている。
――ブラック企業を辞めた自分。王族に嫁ぐかもしれない自分。数週間前まではまったく想像できなかった未来が、今目の前にある。
少しばかり緊張を感じつつも、胸いっぱいに期待が膨らむ。新しい生活、異国の空気、レガリア王国の城――どんな世界が待っているのだろう。ハードルは多いだろうし、不安だってもちろんある。けれど、その不安を共有できる人が隣にいるのだから、何とかなると思える。
(こんなふうに、自分の幸せを最優先に考えてもいいんだ……。そう教えてくれたのはエリオットさん。私、本当に変わったかもしれない)
やがて、エンジンが大きな音を立て、機体がぐんと加速する。重力を感じながら身体がシートに押し付けられ、ふと窓の外を見ると、地上の景色がみるみる小さくなっていった。東京の街が遠ざかり、雲海の向こうに青い空が広がる。
(さようなら、私の古い日常。こんにちは、私の新しい人生――)
心の中でそう呟きながら、麻衣はそっと目を閉じた。
隣ではエリオットが小声で「大丈夫?」と聞いてくれる。麻衣は微笑みながら「平気です」と返す。これから先、どんな嵐があろうとも、この人と一緒なら乗り越えられる。そんな確信めいた感情が自分を支えていた。
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7.エピローグへの布石――新天地での物語
機内での数時間、エリオットと麻衣はこれからの生活についてあれこれと話を弾ませた。どんな住居で暮らすのか、レガリア王国の気候や文化は日本とどう違うのか、王族の行事はどんな感じなのか……。エリオットは楽しそうに「びっくりするかもしれないけど、僕が全部フォローするよ」と言い、麻衣は「頑張ります」と笑顔で応える。
いつしか飛行機は高度を安定させ、窓の外には地平線と雲海が綺麗に連なっていた。まるで二人のこれからを祝福するかのように、黄金色の太陽が輝いている。
「そういえば、レガリアの空って日本とは違うのかな。もっと空気が澄んでるとか、星が綺麗に見えるとか……」
麻衣が興味津々に尋ねると、エリオットは嬉しそうに目を細めた。
「星は確かに綺麗に見えるよ。王宮は街から少し離れた場所にあるから、夜になると満天の星空が広がるんだ。……君と一緒に見るのが楽しみだな」
その言葉が、胸に温かな灯をともす。こんなささやかな未来の約束が、信じられないほど尊く感じられる。数週間前までの暗い過去が、まるで遠い昔の悪夢のようだ。
麻衣はエリオットの手にそっと触れ、短く答えた。
「私も……とっても楽しみです」
そうして二人は顔を見合わせ、微笑みを交わす。お互いに不安もあるだろうが、それ以上に期待と喜びが満ちていた。
ブラック企業をやめる決断をした瞬間から、麻衣の人生は大きく変わり始めた。そこに“終身雇用”や“永久就職”といった不思議な言葉を投げかける異国の王子がいて、あまりにも非現実的な展開ではあるものの、彼女は確かな幸福を感じている。
飛行機の先には、レガリアの地が待っている。王族としての責務、海外生活の戸惑い、言葉や文化の壁――多くの課題があるに違いない。だが、エリオットと共に歩むと決めた以上、もう後戻りはしない。そこには新たな成長と希望があるはずだから。
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あとがき:第四章を終えて
こうして第四章では、麻衣がブラック企業を辞める大きな決断を下し、“観光案内役”ではなく「エリオットの正式なパートナー」として生きていく道を選ぶ姿が描かれた。飛行機の中で交わされる“永久就職”というプロポーズは、まさに彼女が自分の幸せを最優先に考えるようになった証でもある。
- 麻衣の決意:ブラック企業に戻る選択肢を完全に捨て、「自分の幸せを求めていい」と実感したうえで退職を断行。
- 二人の新たな旅立ち:エリオットの母国レガリアへの帰国に同行し、彼の隣で新しい人生を歩むことを受け入れる。
- 飛行機内での「永久就職しないか?」:エリオットの最後のプロポーズに、麻衣は笑顔で「はい」と答え、二人の未来が確固たるものになる。
物語はここでひとつの転機を迎えたが、まだまだ新天地での生活には多くのドラマが待ち受けているだろう。王族としての責任やレガリア国の伝統、麻衣が言語や文化を学ぶ苦労、そして二人の結婚をどう受け入れてもらうか――数多の試練があるはずだ。
しかし、ブラック企業の呪縛から解放された麻衣は、もう以前のように無力ではない。エリオットと共に歩むという意志が、彼女を新たなステージへと導いてくれるはずだ。果たして、この先二人はどのような未来を築いていくのか。幸せの形を模索しながら、一歩ずつ進んでいく物語は、まだまだ続く。
――灰色の路上で倒れていた頃の麻衣は、もういない。今、飛行機が大空を駆け上がるように、彼女の人生も大きく羽ばたこうとしている。
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