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底辺おじさんの異世界逃亡勇者生活
底辺おじさんの異世界逃亡勇者生活
覧都
異世界ファンタジー冒険・バトル
2025年05月25日
公開日
3.8万字
連載中
突然異世界召喚された底辺おじさん、恐ろしさから敵前逃亡をしてしまいます。 逃亡から始まる異世界生活です。

0001 敵前逃亡

「うわあああああああぁぁーーーーーーーー!!!!!!」


やっちまった。

いつも僕はこうだ。

恐くて、悲鳴を上げて逃げ出してしまった。


「うぎゃあああぁぁぁーーーー!!!!」

「なんだー!!?? なんだーーー!!!!??」

「くそーー、逃げたぞーー!! 勇者が逃げたーー!!!!」

「なんてはずれの勇者なんだーー!!」

「ぎゃあああぁぁぁぁーーーーっっ!!!!」


僕の部隊は魔王軍に突っ込まれてパニックにおちいっている。

まあ、僕の部隊がやられても他に6人の勇者がいるから、どうという事も無いだろう。

僕は、目の前の森に逃込んだ。


「わあああああーーーーーーぁぁぁ…………」


森の奥に入るに従って喚声が小さくなる。


「この森は酷いなあ。足元が何も見えやしない」


僕は独り言を言って、何度も転びそうになりながら森の奥へ奥へ逃げた。


「僕は、普通の……いや、駄目な人間だぞーー!! いきなり勇者様ってなんだよーー!! 戦争なんて恐くて参加出来るかよーー!!」


僕は天に向って怒鳴った。


「声がしたぞーー!! こっちだーー!!」

「さがせーー!! さがせーー!!」

「敵前逃亡だーー!! ぶち殺せーー!!」

「ころせーー!! ころせーー!!」


――げっ!!


追っ手がかかったみたいだ。

しかも、大勢の声がする。

捕まれば殺されるのだろうか?


――逃げなければ!


僕は恐ろしさから必死に走った。

森の木が、残像のように後ろに流れる。


――なんで、こうなった。


走りながら思い出していた。

僕は施設警備員をやっていた。

月給は今時、基本給十一万円。そこに手当が付いて手取り十五万円。

残業と夜勤をやって、各種税金と独身税を引かれるとこの金額だ。

既に三十五歳。

超絶底辺のおっさんだ。人生終わっている。

派遣隊の隊長が糞野郎で、ずっとやめたかった。


でも、やめなかったのは、やめたら他に就職出来るほど優秀な人間じゃないからだ。

直前の記憶は守衛室で深夜の警備中、気持ちよく居眠りをしている最中だった。


――はっ!! もしかしてこれは夢なのか?


「うわあああああああぁぁぁーーーーーーーーっっ!!!!!!」


やってしまった。

必死で走っていたら、地面がなくなった。

振り返ったら、崖になっている。


――あんな所から落ちたのか。


既に踏み外した場所が遠くに見える。

下を見ると、ゴツゴツした大きな岩ばかりだ。

その向こうに細い川がある。

このまま落ちればどう転んでも岩の上だ。

川には届かないだろう。もし届いたとしても浅い川のように見える。


「た、たすけてくれぇぇぇーーーー!!」


走馬灯なのか?

景色がゆっくり流れていく。

美しい女神が出て来て、お前はトラックにはねられて死んだ。

世界を救うため、魔法と力を与えよう。

そんなアニメを見た事を思い出した。


「がふっ!!」


とがった岩の上に落ちて、胸を強く打った。

滅茶苦茶痛い。

これは、夢では無さそうだ。


「があぁぁぁぁーーーげぼぉーーーーーぉぉ」


汚い話だが、ゲロを吐いている。

でも、そんな自分を俯瞰で見ている。

痛みが消えた。

ああ、これが幽体離脱か。

これは、死んだのだろうなー。






「ぐはっ!!」


どの位時間が立ったのだろう。気がついた。

周囲は真っ暗だ。

ここは地獄か? いや、空には星がある。目の前には川もある。

恐る恐る胸を触ってみた。

あれだけの打撃を受けたのなら肋骨が折れているはずだ。


「おかしい」


肋骨が折れていれば、グニャグニャのはずだが硬いままだ。

考えられることは2つ。

あれだけ強打をしてもケガをしなかった。

もう一つはケガをしたのだけど、そのケガが治ったということだ。

どちらにしても、普通ではない。






僕はたしか警備中居眠りをしていたはず。

それが、気がついたら荒野の魔法陣の中にいた。

他にも6人の人がいた。

男が3人、女が3人。

僕は警備員の制服を着ていた。

他の3人の男は軍服が一人と甲冑姿が2人だった。

女性は3人とも美人だった。

あーー、女性は顔しかみていねー。


「勇者様、これをどうぞ」


僕達7人に、1番偉そうなおじさんが剣と皮の防具を渡してくれた。

そして、部下が千人。

目の前には魔王軍がいるようだ。

魔王と書いた旗が立っている。


「全軍、突撃ーー!!!!」


僕達の装備が終わると。

偉そうなおじさんが大声を出した。


「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉーーーーーーーー!!!!!!」


喊声と共に全員が走りだした。

何だかわからないうちに、僕は千人隊の隊長にされていた。

幸いにして、僕の隊は1番右端で少し向こうに森がみえる。

魔人達はみんな異様な姿で恐ろしい勢いでこちらに向ってくる。

手には武器を持ち殺気があふれ出している。

僕はそれを見て全身が震えた。


気がつけば、悲鳴を上げて森へ逃込んでいた。






「やべーー、ここはどこだーー?」


声を出しても、何も返ってこないのだけれど言わずにはいられない。

僕には、サバイバルの経験はない。それどころかキャンプもしたことは無い。

アウトドアの趣味は何も無い。

でも、サバイバルの知識は漫画やアニメで少しだけ見た事がある。

そんなんで果たして生きていけるのだろうか。

生きていてどうなるのだろうか?


僕は、ゆっくり体を動かしてみた。

痛みはない。

追っ手が心配なので、川沿いを流れと逆に歩いた。

流れに従って歩くと下流にむかうことになり、村に出てしまうと思ったからだ。

少し歩くと、断崖絶壁の滝が出て来た。

日本では見た事も無いほどの大きな規模の滝だ。

ドドドドと重い音がして、水のなんともいえないにおいがする。


回りを見ても全部絶壁だ。

この先へ進むためには、上るしか無いということなのだろう。

腰に手をあてて見上げてみた。

恐らく首が90度曲がっているだろう。

僕は、追っ手が恐くてのぼる決心をした。


「ふむ」


こう言うのをロッククライミングと言うのだろう。

恐る恐る最初の一歩を踏み出した。

あんがい、楽々で上ることが出来る。

もしかするとやったことが無かっただけで、僕には才能があったのかも知れない。

垂直の壁に見えた崖が、なんの苦も無くすぐに登り終われた。

登り終わるとまた深い森だ。


僕は、川の横を脇目も振らずに走った。

ものすごい勢いで景色が流れていく。


「ぐぅーーっ」


腹がしゃべった。


「ふふふ、くっくっくっ」


僕はなにか可笑しかった。

なぜ腹がなるのか、はじめて意味がわかった気がする。

僕は命の危機から、腹がすくのも忘れて走っていたようだ。

腹がなってはじめて空いているのに気がついた。

もし鳴らなければ腹が空いていることに、永久に気がつかなかっただろう。

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