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 食事を終えて、二人は食堂のカウンターにお盆や食器を戻し、その後自分たちの部屋に戻って回診を始める。


 そして全ての担当患者のところに行った後、最終的に訪れたのは桜井さんの病室だ。


 二人が桜井さんの病室に到着し、部屋に入るとすぐに、望も和也も桜井の行動を目撃し、息をのむ。


 そして次の瞬間、望が声を荒らげる。


「ちょっと! 君、何してるんだよっ!」


 望の声が病室内に響き渡った。


「はぁ……はぁ……ちょっとな……運動しておかないと体が鈍ってしまって、すぐに仕事に復帰できんやろ? だから、運動を……」


 桜井が息を切らし、額から汗を流しながら言う。


 望が声を荒らげた理由は言うまでもないだろう。 数日前に怪我をして手術したばかりでありながら、まだ安静が必要な時期にもかかわらず、立ち上がりベッドの柵に掴まって歩いていたのだから。


 本来ならまだ安静にしていないと傷口が開いてしまう時期であり、その状態で体を動かしていることに怒りを感じるのは当然だ。


 そして医者としての望は、桜井のそうした姿を見てしまったことから、つい声を大にしてしまったのは当然のことだ。 雄介が怒られても仕方がないことをしていたのだから。


 望の行動に対して、和也は仕方なさそうに息をつく。むしろ怒られても仕方がないというため息だろう。


 和也もまた、望と同じような立場にいる。


 だからこそ、こうした姿を見てしまったら、和也も同様に声を荒らげることになるだろう。 望の方が一歩早かったというだけのことだ。

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