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 望はそっと桜井に近づき、


「確かに分かりますけどっ! とりあえず、今の貴方は無理はしてはいけない体なんですよっ!」


 と言った直後、桜井は望を見つめ、


「心配してくれるんですか?」


 と口にした。


 望は一瞬言葉を失い、そんな桜井を見つめた。


 望はすぐに体勢を整え、桜井の体を持ち上げ、ゆっくりとベッドに戻した。


「あー……そうですね。というのか、そう言うのが医者として当たり前のことなんですから……どんなに酷い患者さんでも、医者は患者さんの体のことを一番に思うもんですからね。それと、言いませんでした? まだ、貴方は手術をしたばかりなんですから、動くと傷口が開いてしまう恐れがありますので、最低でも一週間は安静にしていただけないと困ります!」


 望はそう口にしながら、雄介の行動に傷口が開いていないか心配になったのか、診察をし傷口が開いていないことに安堵し、息を吐く。


 その中で、桜井は窓の外を眺めながら、切なそうに言葉を吐く。


「せやけどなぁ……」


 その時、窓の外からはサイレンの音が聞こえ、桜井は救急車が窓の外に見えると、切なそうな瞳で見つめ、


「今、俺がこうしている間にも何処かで火事があって、助けを求めている人達がおるっていうのに、俺はこんな所で休んでおってもええんやろうか? って思うんやぁ。早よ、治して現場に行ってやらなきゃってな」


 望は桜井の言葉に軽く息を吐く。雄介のその言葉に共感したのか、それとも呆れたため息だったのかは分からないが、望は、


「確かに貴方の言ってる事は分かりますよ。だけど、今、貴方は怪我しているのですから、怪我を治す事に専念して下さいね。それに、今のままで現場に復帰してもただの足手まといになるだけですから。流石にそれでは意味がないでしょう? 完治してない足で現場を動き回れると思いますか? なら、完全に治ってからまた人助けをして下さいね。傷口が塞がったら直ぐにリハビリが出来るように、俺が手配しますから」


 今まで望は桜井に対して憂鬱とかという思いがあったのだが、今の桜井の言葉で何か同じ物を感じたようだ。だから今の桜井に対して望は普通の患者さんに接し、そして優しく厳しくも諭すかのように言葉を綴り始める。


 そう、今桜井が言っていた言葉が望にも痛いほど分かるからであろう。


 確かに桜井とは職業は違う。だが職業的に人を救いたい気持ちというのは共感できる部分であったからこそ、望の方も桜井に寄り添えたのかもしれない。そして桜井が言った言葉に優しさや温かさも感じられたから、望の方も優しくなれたということだろう。


「せやけど、こうのんびりとしてる暇なんて……」


 そう言葉を続けた桜井だったが、その桜井が言おうとしたことが分かったのか、それを遮るように望は言葉を繋げる。


「分かりますよ。だけど、消防士さんは貴方一人だけではありません。貴方も命を救う人なら分かると思うのですけどね。俺も貴方も確かに職業は違う。だけど、貴方と共通している事は人の命を救う事。この仕事をしていて一番嬉しいのは、やはり、自分が担当していた患者さんが笑顔で退院して行ってくれる事です。もし、桜井さんが俺と同じ気持ちなら、逆に今の俺の気持ちも分かってくれますよね?」

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