「なぁ、和也がもし男に告白されたらどうするんだ?」
望は本当に和也の気持ちは全くもって理解していないのであろう。そんな気も知らずに、普通にそういうことを聞いているのだから。
「え? あ、あ……うん……そうだな」
和也は少し考えると、
「好きになってくれたら、やっぱり、男も女も関係ない……かな?」
考えたつもりだったのだが、普通に望の言葉に答えてしまっていた和也。だが心の中はきっと穏やかではないだろう。そうこうやって言葉を詰まらせながら答えてしまっているのだから。
しかし、和也は望に告白をしていない。だから望が和也の気持ちを知る由もなく、そのことについて淡々と答えなければならない自分に、胸の中は苦しいという気持ちが支配しているのかもしれない。
「そっか……和也はそう思ってるんだ。なら、付き合ってみようかな?」
「……へ?」
その望の言葉に慌てたように顔を上げ、望のことを見つめる和也。そして、
「え? あ、ちょ、ちょっと待てよ!」
和也は戻ろうとしていた望の体を止め、その望の体をフェンスへと両手で押し付ける。それと同時にフェンス特有のガシャンという音が屋上へと響き渡るのだった。
「ちょ、ちょっと、待てよ! あのさ、お前がまだアイツのこと好きになったっていうわけじゃねぇんだろ? だ、だったら、まだ付き合わなくてもいいんじゃねぇのか?」
「でも、お前が言ってくれたじゃねぇか。告られたら、男も女も関係ないって……それに、今は俺……アイツのこと嫌いじゃなくなってきたしな……」
「え? あ、う、うん……確かにそうは言ったんだけどさ」
和也はこれ以上、望を言葉で止める手段はなくなったのか、ただただ和也は望の肩に置いてある手に力を入れているだけしかできなくなってしまったようだ。
「あ、あのさ、望……一つだけ聞いていいか? 望は本当に本当にアイツのことが好きになったのか?」
更に和也の手に無意識のうちに力が籠ってしまったようで、望は痛みで顔を歪ませる。
「ちょ、痛ぇって!」
と望は思わず叫んでしまっていた。
「あ、ちょ、ゴメン……」
和也は今の望の言葉で思わず力を入れてしまっていたことにやっと気付いたのか、力を入れていた手の力を緩めるのだ。しかし、和也はまだ望の肩を掴んでいる。そうだ。和也は望のことを離したくない一心だったからであろう。
だが和也からしてみれば望を止める手段というのもない。そのよく分からない状況の中で和也は望のことを諦めてしまっているのだ。離したくはない。この手を離してしまったらきっと望は桜井さんの所に行ってしまう。そして、和也が今思っていることを察してしまっているのかもしれない。
「た、確かに今はまだそんな気持ちにはなってねぇよ。でも! もし付き合ってみたら、好きになるかもしれねぇじゃねぇか」
「じゃ、もし、付き合ってみてアイツのことを好きにならなかったら!? アイツのこと、傷付けるだけになるんじゃねぇのか?」
そう焦ったように答える和也。
「確かにそうだけどよ……でも! それは傷付けるかもしれねぇし、傷付けないかもしれねぇし、そこは今のところ分からないことだろ?」
その望の言葉で、やっと和也は望のことを諦めたのか、掴んでいた手を緩め手を離し、和也はそのまま深刻そうな表情をしながら、そこら辺にあるコンクリートへと腰を下ろしながら顔を俯ける。
今の和也というのは何を考えているのであろうか。
項垂れながらも頭を必死に掻いてみたり百面相のように表情を変えてみたりしているのだから。そう今の和也は色々な感情が入り混じってしまっている状態なのであろう。