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 望が雄介の病室の前を通ると、何故だかそこから和也の笑い声が聞こえて来たような気がした。そこで望は足を止め、雄介の病室のドアを開けてみる。すると、そこには和也の姿があったのだ。


「和也!」

「あ、望……」


 そう何事もなかったかのような反応をする和也。しかし、望の姿を見ると和也は望の背中を押し、病室を後にする。


「え? ちょ、お前なぁー! 何で、俺を雄介がいる病室に入れようとするんだよ!?」


 もう望の方はそこに呆れて来たのか、半分怒ったように言うのだ。


「ま、いいからいいから……」


 そう言って人差し指を立て口元へと当てながらも、望に向かって静止を求める和也。


 そんな和也の仕草に望は首を傾げる。


「だから、何で静かにしなきゃなんねぇんだよっ! それに、今はお前と話してる場合じゃなくてっ!」


 そうもう望はイライラが最高潮まで来ているのか、和也が背中で押している間も暴れながら言うのだった。


「あ、いや……ちょっとでいいから俺の話を聞いてくれねぇか?」


 和也はそう望に向かって、あやすかのように言うと望の耳元で話を始める。どうやらこの話というのは他の誰かに聞かれたくはないようで、なるべく小さな声で話し始める和也。


「とりあえず、仕事があるのは分かってる。でも、この話は望にも聞いて欲しいんだよ。あのさ、今日はさ、桜井さんの所に見舞客が来てんだろ? その人達の様子を見ていて欲しいんだよな。俺はその間に知り合いの刑事さんに電話してくるからさ」

「……って別に声を小さくして話すような事じゃねぇだろが」

「所がどうやら、その桜井さんの事件で関係大有りかもしれないんだよ。とりあえず、訳は後で話すし、望は桜井さんの病室で様子見ててくれねぇか? 仕事は後でやるからさ」


 そう言うと和也は携帯を手にして外に行ってしまう。


 そんな和也に一つため息を吐くと仕方なしに和也に言われた通り、訳の分からないまま望は雄介の病室で雄介達との会話中へと入るのだ。というのか黙って見ているだけというのが正しいのかもしれない。 和也の場合には完全に、その輪の中に入って話をしていたのかもしれないのだが、望の場合には黙ってそこに突っ立ったままだった。


 そこに居た人物は雄介の同僚で同期でもあって親友の坂本淳(サカモト アツシ)と言うらしい。


 確かに親友が来ているのだから話が盛り上がるに決まっている。


 親友とはそういうものだ。


 こう話が合うというのか心から話が出来る友達なのだから少なくとも上部だけの付き合いではない。


 親友なのだから何をしても何だか楽しいし、おかしいと思う。


 そんな雄介と同僚の姿に、望は和也との事を重ね合わせて見ているのかもしれない。


 しかし友達でもない望がこの場所に居てもいいのであろうか? そう今の望にとっては本当に全く関係のない人間なのだから。


 全くもって今は関係の無い望は時折、雄介にチラリと見られては苦笑いを繰り返すだけ。そんな訳の分からない時間を過ごしている望。


 気付くとそろそろ面会時間のチャイムが鳴ろうとしている時間でもある。


 そして面会終了のチャイムが鳴り、面会時間が終了の時間となってしまった。

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