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「桜井さんが緊急で搬送されてきたときに手紙を拾ったんだよ。あの脅迫めいた手紙をな。今はその手紙は警察の方に提出させてもらってる」

「なんや……その手紙もう警察の方に提出してもうたんか?」


 そう、何故かこう悲しげに言う雄介。


「なんだか、そういう風に言われると……この手紙を警察に渡してはいけなかったような感じだよな?」


 今まで雄介はベッドの上で半身を起こしていたが、リクライニングの背もたれに背中を預けるとゆっくりと語り始める。


「……それな……俺的にはその脅迫文を送ってきてる奴が誰だかって薄々気づいておるんやわぁ。まぁ、先生がここに来て、その話をして来たという事は何かしらその事について事情を知っているようなんやけど……。あの坂本の家が火事になってアイツが家族を失ってからなんやって、そういう事が頻繁に起こるようになったんわぁな。ま、坂本は親友やし、そないな事はせんと思うとったんやけど、なんや、そんな気がして仕方ないねん。信じたい気持ちと信じたくない気持ちと背中合わせってところやな。でも、もし、坂本が俺の命狙っているっていうのなら、そこはしゃーないかな? とも思えるんやけどなぁ。あの時、俺の目の前で火事が起こっているっていうのに俺には何もしてやれる事が出来へんかった……その事については俺の方もかなり後悔はしとる。消防士やって、何も装備がないんじゃ人を助ける事も出来へんかった……ほんで、アイツにその場で怒られて実際問題、俺には『ゴメン……』の一言しか言えんかったしな。俺の命を狙う。ただそれだけで、奴の気がすむんやったら、俺的には別に構わへんって思うんやって……」


 そう静かに語った雄介だったのだが、その静かな空間に望の怒鳴り声が響き渡るのだ。


「ちょ……お前は馬鹿かっ! そんな奴に命狙われて、こうのへぇーとしてられるお前の気持ち俺には全然分からねぇ! ふざけんなっ! 周りの人の気持ちまで考えた事あんのかっ! そこまでして自分の命を粗末にするんじゃねぇ!!」


 望はその言葉と同時に立ち上がりベッドの端から身を乗り出すように雄介に向かい叫ぶのだ。


 だが次の瞬間、和也はその話を廊下で聞いていたのか病室へと入って来て望の腕を掴み止め、


「も、いいだろ? そのくらいにしとけよ……」


 そう言って和也は望の事を雄介から引き離すと、


「もう、今の桜井さんの話で桜井さんの気持ち分かっただろ? なら、部屋の方に戻ろうぜ……」


 そう言って和也は望の腕を引くと雄介の病室を後にするのだ。

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