「離せ! 和也っ!! まだ、俺はアイツに話があんだよ!」
病院の廊下なのにも関わらず、思いっきり声を張り上げ、掴んでいる和也を振り解こうとしている望。それでも和也の方は離さまいとしながら部屋へと望の事を連れて行くのだ。
「ふざけんなっ!! 今の望は冷静な望じゃないんだからよ! そんな望を患者さんの側に置いておけるわけがねぇだろが!! 冷静じゃないお前を患者さんの近くにおいておく訳にはいかねぇんだよ!!」
和也はどうにか抵抗する望を部屋まで連れて来ると、望がいつも座っている椅子へと座らせる。
だがそれでも望は未だに抵抗は続けていた。
「……っ! だから、離せって言ってんだろっ! 俺はアイツにまだ話があんだからよっ!」
和也は望の前にしゃがみ込み、望の事を見上げて望の事を説得させるように語り始める。
「あのさ……あの場で俺が入って行かなかったらどうしてたんだ? 桜井さんの事殴ってたかもしれねぇよな? さっきの望はそういう雰囲気が漂ってたんだぜ。だから、俺が止めに入ったんだかよ」
「あ、ゴメン……」
「まぁ、とりあえず、俺に謝られても困るんだけどな」
そう和也は頭を掻きながら一呼吸すると、
「さっきの桜井さんの話を聞いて、桜井さんは誰が桜井さんに脅迫文を出したか? っていうのを分かってるんだろ? とりあえず、そこは、桜井さん次第なんじゃねぇのか?」
「ん……まぁ、そうなんだけどさ。それじゃあ、また、桜井さんが何度もこの病院に来るって事になるんじゃねぇのか?」
「意外に桜井さんの方もそれを望んでたりしてな。でも、前にもお前は言ってただろ? 『もう一度、戻って来て欲しい』って……」
「そりゃ、前はそうだったけどさ。今は、絶対に違うっ!! 流石にそう思っちゃいねぇよ。今の桜井さんの状況は完全に命を狙われてるって分かってる事だ。だから、怪我だけでは済まなくなってくるかもしれねぇんだぜ。また、退院して怪我だけで済む問題じゃなくなってきたら? どうすればいいんだよっ!」
和也は望が言いたのかが分かったのか、大人しく聞くとまた一つため息を吐き、
「そんなに桜井さんの事が気になる程、望は桜井さんに惚れちまったって事だ」
その和也の言葉を聞いた望は顔を赤くし、顔を俯かせ黙ってしまう。
「黙るって事は、図星って事だよな? 望はやっぱ俺なんかより桜井さんの方がいいみたいだな。逆にそれをハッキリ聞けて俺的にはスッキリしたよ。だから、ま、これからは、親友として宜しくな」
和也は本当にそういう気持ちで手を差し伸べたつもりだったのだけど、望はその手を払い退けるとそのまま部屋を出て行ってしまう。
そこに一人取り残されてしまった和也は立ち上がると、
「……ったく、今のってどういう意味なんだよ。とりあえず、俺の方も長い間望も事で悩んだんだし、少し位、望の方も悩んだ方がいいって事なのかな?」
和也は望の事を追い掛けずにディスクへと向かい、仕事を始めるのだ。