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ー記憶ー85

「い、一般の方に急に斧なんて渡せませんよっ!」

「アホかっ! 俺も同じ消防士やっ! 消防士やなかったら、斧なんて言葉出て来ないやろっ! 早よっ! 貸してっ!!」


 そう雄介は切羽詰まったかのように言うのだが、その消防士は雄介には渡さずにそのシャッターを壊し始める。


 そして人一人通れるようになると雄介は直ぐに中に入ってシャッター付近でぐったりとしている望に声を掛けるのだ。


「望! 大丈夫かっ!」


 雄介は望のことを抱き抱えると直ぐに外へと連れ出す。


「ちょ、ゆ、雄介……まだ、中に……げほっ! 人が……はぁ……はぁ……」


 望は薄ぼんやりと瞳を開けると腕を上げて中を指差す。


 雄介はその望が指した方向へと視線を向けると、さっきまでは無我夢中の中にいたから気にしなかったのだが、さっきまで居たファーストフード店の中は凄い事になっていた。


 シャッターの向こう側に見えるファーストフード店。


 そこは先程まで、あんなに賑わっていたのに火事の影響で机も椅子も店内も丸焦げで今はその面影すらもない状態だった。


 確かにスプリンクラーは作動したようなのだが、焦げた店内にそのスプリンクラーの水滴がポタポタと垂れ床をも濡らしている。 本当に望以外で、この中に人なんかいられたのであろうかという状態になっていたのだから。

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