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ー記憶ー106

 それは、やはりふたりで過ごす喜びを知ってしまったからだろうか。


 雄介はその感慨に浸りながら、一人部屋で深いため息をつくと、静かに食事を終え、食器をキッチンへ運び出す。


 その時、望のことが脳裏によみがえった。


 望の家では、雄介が料理を担当すると、必ず望が食器を洗ってくれた。だから、一人で食器を洗うのは久しぶりのことだった。一人、いや、恋人がいないと、まるで部屋の明かりが一つ消えたような気がする。部屋の中も、それだけで暗く感じられるほどだ。


 雄介はそんな時、あることを思い出す。


「あ! そうだ!」


 そう、つい最近、望が記憶を失う前に雄介に提案してくれたことだ。


『一緒に住まないか?』


 この言葉の後に望が記憶を失ったため、まだその約束は果たされていない。


 もし望が一週間ほどで退院できるなら、雄介と望は一緒に暮らせるのだろうか。


 ただし、今の望はその言葉を言ったことすら覚えていないかもしれない。今の望にはその記憶がない。


 では、どうすれば望と一緒に暮らせるのだろうか。


 それが今の難題だ。


 今の望にとって、雄介は完全な他人であり、たとえ望が退院してきても、その他人が一緒に住むことは難しいだろう。


 そのためには再び望の承諾が必要だ。


 では、どうすれば自然に望と一緒に住むことができるのだろうか。


 雄介はお風呂に湯をためながら、考え込んだ。


「何か、こうして一緒に住む方法はないかな?」


 お風呂の中は一番くつろげる場所であり、逆に何もない場所でもある。色々と考え事をするには最適な場所だ。


 ただの友達では、望の家に泊まるわけにもいかない。 それはあまりにも不自然すぎる。


 看護師や職場の仲間として同行すれば、一緒に住めるかもしれないが、今の雄介は望にとって恋人でも友達でもない。


 何か、いいアイデアはないかと雄介はお風呂の中で、腕を組みながら考え込んでいた。そして、何か良いアイデアが浮かび上がり、雄介が立ち上がると、お風呂のお湯が大きな音を立てながら流れる。

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