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ー記憶ー110

「あ、ああ……まあ、午前中の検査に付き合って来たけど、後数日で退院の方は大丈夫だって担当の医者が言ってたよ。通院は必要みたいだけどね」

「あー……そっか……。そうそう!」


 雄介は急に興奮気味に言い出した。


「望が退院したらな、望の家に一緒に住もうと思ってるんだけど……」

「俺もそう思ってたんだけどさ。ほら、アイツ独り暮らしじゃないか、だからさ、俺的には看護師としても心配だし、いつ記憶が戻ってもいいように様子を見てたいんだ。俺の方は看護師だからっていう理由で住めるかもしれないんだけど、雄介の方はどうするんだ?」

「ん? 俺か? ちゃんとそこも考えておるから……ま、大丈夫やって……」


 和也にだけ理由を打ち明けようとしたが、その直後、今まで閉まっていたカーテンの向こう側から声が聞こえてきた。


「もう、開けてもいいぜ」

「だってさぁ」


 和也は望の声に反応して笑顔になり、カーテンを開けてすぐ側にあった椅子に腰掛け、同時に雄介も椅子に腰掛けた。


 雄介と和也は望の記憶に刺激を与えない程度に思い出話を望にしていたが、その途中で和也は院内放送で呼ばれてしまった。


 その場に残されたのは雄介と望だ。


 和也がいなくなると逆に何を話したらいいのかわからない雄介。


 和也がいなくなってしまってからの雄介は、困った顔をしたり焦った顔をしたり、腕を組んだり足を組んだり、顔を俯かせたりと表情を変えているようだった。


 暫くの間、病室内には沈黙が流れる。


 その静かな空間に耐えられないのは、雄介なのかもしれない。

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