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ー記憶ー111

 雄介は考えを巡らせるが、一向に頭に言葉が浮かばず、視線も宙を漂わせている。その時、先に口を開いたのは望だった。


「なぁ、お前って何者なんだ? ずっと、俺の所に来ててさ、俺からしてみたら意味分からねぇんだけど……?」


 望の声に怒りを感じる雰囲気が漂い、雄介はため息混じりのような息を吐く。


「せやなぁ……」


 雄介はその言葉で望に視線を合わせ、笑顔を向けると、


「お前の従兄弟かな?」


 二日前、雄介はお風呂に浸かっている時に考えた答えがそれだった。


 そう、望と一緒に暮らすための策略としての『従兄弟』。


 望には、そう伝えておけば受け入れてもらえるかもしれないと思ったからだ。


 雄介の中では、実は望に今すぐにでも『恋人』ということを伝えたいと思っていた。しかし、記憶を失っている望に男性の恋人がいたということを伝えるのは得策ではないと考えた。また、雄介の存在自体が望の記憶喪失のせいではないので、望との関係は従兄弟というのが最善だろうと判断した。実の兄弟ということを伝えるには、あまりにも似ていないからだ。そこで、従兄弟が最も適切な関係だろうと判断したのだ。


 これが幸運か、不運か。それが問題だ。


「あぁー! そっか! 従兄弟だったのかー!」


 望は雄介の言葉を疑うことなく受け入れ、どうやら従兄弟という関係を受け入れたようだ。


 これでなんとか望に近づけた気がした雄介。その瞬間、ホッと胸を撫で下ろした。

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