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ー天災ー8

 他の消防隊員が消火活動を行っている最中、雄介は一人でマンションに向かって走り込んでいった。


 雄介はマンションに向かう途中で誰かに「桜井!」と声をかけられたような気がしたが、今はその声に気を取られる余裕はなかった。むしろ、火の中に飛び込む決意で一心に進んでいた。


 しかし、雄介の行動は明らかに命令違反であった。


 しかし、そのことは今の雄介にはどうでもよかった。


 一人の命を救うために行動することが、消防士としての役割だと、雄介は考えた。


 マンションのロビーに到着した雄介だったが、火の手はまだ及んでおらず、ヒンヤリとした空気が漂っていた。 おそらく一階はまだ安全なのだろう。


 雄介は非常用階段を見つけ、駆け上がっていった。


 段々と火元である十階に近づくにつれ、周囲の気温も上昇していた。


 鉄製の非常階段を上がると、雄介の視界には「十」という文字が現れた。


 ここからが本番だ。防火扉の向こう側には火がまだ燃えているはずだ。この扉を開けると、熱気が押し寄せることだろう。


 自分に勇気を奮い立たせ、雄介はドアノブに手をかけた。


 雄介はこのような現場に何度も立ち会っているが、慣れることはない。死と隣り合わせのこの仕事には、雄介もよく理解している。

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