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ー天災ー49

 久しぶりの恋人との再会に本当は嬉しいはずなのに、体の方はもう反対な行動をしてしまっているような気がする。いや、違う。勝手にどこかに行ってしまった雄介のことを許してないからだ。


 これがもし、雄介が望に異動のことをちゃんと伝えていて、何処かに行ってしまっていたのなら、この再会というのは嬉しいと思う。だが、今回のことはそういうことではない。


 雄介は望に置き手紙だけを残して行ってしまったのだから、それが望からしてみたら許されないことだった。


 そして、望はひと息吐くと、


「とりあえず、分かった……だから、話は後で聞いてやる。今はすべき事はする所だろ! だから、この手は離せっ!」


 望は少しは冷静になってきたのか、そう静かに言うと、みんなが動いている方へと視線を向ける。


 それと同時に、雄介も物資を運んでいる人達の方へと視線を向けるのだ。


「せやったな。スマンかった……。今はこないな事しとる場合やなかったんやっけなぁ」


 雄介は望にそう冷静に言われて、自分がなんの為にここに来たのかを今思い出したようだ。


 雄介だって、まさか望がここにいるとは思わなかったのであろう。だから、一人平静さを保つことが出来なかったのかもしれない。


 そして、望にそう言われてやっとのことで、雄介は望の手首を離すのだ。


「ほら、手伝うぞ!」

「ああ」


 そして、二人も物資を運ぶのを手伝い始める。


 雄介は今の今まで、望のことがいっぱいで周りの景色には気付いていなかった様子だ。物資運びを手伝う最中に見えて来た景色というのは、荒れ果てた春坂の街並み。


 本当に、春坂は今大きな地震が起きてしまい、大変なことになっている。事故や爆発の次元ではない。そうだ、人間が起こす事故との次元とは全く違う。自然が起こす災害の方が怖いとさえ思う。動物界で一番の頭脳を持つ人間でさえも、自然には敵わないという所だろう。


 今まで煌びやかに輝いていた街並み。


 だが今はその景色はない。


 そして、人々の笑い声さえも聞こえて来ない世界になってしまっていた。

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