和也が本格的に眠りに落ちた後、部屋の中は静かな空気に包まれた。
今、彼らの間には何もない。音も光も、感じられない世界。
会話が途切れると、部屋には時計の針の音しか聞こえない。
そして、未だに望は雄介を許せていない。だから、和也が眠りについた後も二人の間には何もなかった。
だが、雄介は望に叱られる覚悟で彼の背後に近づき、彼を抱きしめながら告白する。
「本当に、ごめんな……。それに、無事でよかった」
望は雄介の腕を振り解くことなく、机に向かって仕事を続けた。
しばらくの間、雄介の独り言しか聞こえなかったが、彼も望に無視されることは予想内だった。
ただ抱きしめられて、望に腕を解かれないだけでも満足だった。
「……しょ、しょうがないな」
「……え?」
やっと口を開いてくれた望だが、まだはっきりとは声が出なかった。小さな声だったため、雄介の耳には届かなかった。
「しょうがないって言ってるんだよ……。俺たちの仕事は人を救うってことだからな。お前は優秀な消防士だったんだろ? だから、レスキュー隊の訓練を受けられたんだろうし。だから、他のところでもお前のことが必要だったんだろうぜ。だから、しょうがないって言ってるんだよ。俺たちのことは仕事の次だろ?」
「ああ……まあ、そうやんなぁ」
「じゃ、それでいいだろ……。それに、神様は試練を与えてるかもしれないけど、こうしてまた、俺たちに会える機会をくれたんだろ? なら、それでいいんじゃないのか?」
そう言うと望は雄介の顔を見上げて微笑む。
雄介もその望の笑顔に応えるように、彼に笑顔を返すと、やっと二人の視線が交わった。