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ー天災ー61

「んー……風邪ぐらいなら、大したことないさ」

「そういう問題じゃないんだよ。俺は別にお前のことを心配して言ってるわけじゃない! 患者さんに菌をばら撒く気か? 患者さんの命が大事なんだろうが……」


 確かに望が言っていることは正しいが、それでも今の言い方は傷つく。


「あー! 分かったよ! 分かったって! 俺は寝てればいいんだろ! 望は俺の心配なんかより患者さんの方が大事なんだもんな」


 和也はソファから立ち上がり、『患者さん』という言葉を強調してベッドに向かう。


「イライラするのは分かるんだけどさ! 俺に当たってんじゃないよ!」


 今の状況で相当ストレスが溜まっているのは分かる。望もそう返すと和也の方も似たような感じで返しているのだから。


「なんだとー!」


 望は和也のところに向かい、もう一度何か言おうとしたが、その二人の行動を雄介は止める。


「お前……昨日言ってたやんか、こんな時に争っちゃアカンって……。お前、そのストレスを患者さんにもぶつける気か?」


 そう言われて望は雄介の方を見つめ、雄介も真剣な眼差しで望を見る。


「ごめん……」


 そう言って、少し乱れた白衣を直し、ソファに座る。


 地震が起きてからもう三日。


 あの地震で怪我もなかった人間でも、今ではストレスが溜まっている。今はご飯さえも自由に食べられない状況だ。道は車も走れない。物流は完全にストップしている。今の状況ではヘリコプターで物資が運ばれてくるのが頼りだ。


 『食』も自由に出来ない状況なのに、衣類も自由に出来ない。人間にとって最低限必要な『衣』『食』『住』において不十分な生活を強いられているのだから、誰だってストレスは溜まる。


 そんな中、人間は生きていくために普段はやらないようなことをすることもある。精神的にも極限状態になっているのだから、強奪や空き家に入っての強盗をする者も出てくる。生きるためなら何でもするということだ。

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