「頑として雄介の言う事を聞かない望に、雄介はもう付いて行くしかないだろう。それこそ放っておいてもいいのであろうが、そこは恋人として心配だからだ」
「和也も行くんか?」
そう雄介はベッドでゴロゴロとしながら和也に声を掛ける。
「行かなくていいわぁ。俺はやっぱ寝てるしさ……未だに体とかって怠いし。それに、二人の邪魔したくねぇしなぁ」
最後の方は、にやけて言う和也。
それに対して呆れたように望は、
「……ったく」
そう言うとソファの方へと向かうのだ。
「って、事だから、二人で楽しんで来いよ」
今度は望には聞こえないように雄介にそう言う。
「え? あ、ああ……まぁ、楽しむって程じゃないんやけどな」
雄介の方も返すと起き上がり今度は望が座っているソファへと向かうのだ。
「そういや、いい加減、そろそろお風呂に入りたいよなぁ?」
「ホンマやな……電気、ガス、水道、どれが欠けても人間って生活出来んもんなんやね」
「そうだな。俺達は今までそのライフラインにどれだけ頼ってきたんだろう?」
そんな風に呟くと、
「じゃあ、俺達の方は行ってみるか?」
「ああ、そやな……」
望と雄介は用意を済ませると外へと出る。
もしこの状態で自分の家に辿り着けたなら、服くらいは持って帰れればいいと思う。
そして病院の外へとあの震災以来初めて出た望。
本当に今回の地震で、どれだけの被害が出ているのであろうか。そこはまだ未知の世界だ。
この前ちょっとは外の様子を見たのだが、それだけでは把握できてなかった。望が本格的に外へと出ると、今までの街が本当にない。木も電柱もマンションも住宅も何もかもが無くなってしまっていた。
確かに雄介の言う通りなのかもしれない。このままで本当に自分の家にさえ辿り着けるかが分からなくなってきた。当然、救急車だってここに辿り着けてないのだから車だって使えないのも分かった。どう考えたって歩きでしか向かえない状況だという事も今知ったような気がする。通常なら車で望の家まで二十分。 歩いてだと一時間はみた方がいいのかもしれない。だけどそれはあくまで道があっての話だ。今はその普通の道さえもない状態なのだから、ここから望の家までどれくらい掛かるのかは検討がつかないという所であろう。