今日は望が無理に行きたいと言ったのに付いて来てくれた雄介には感謝したい気持ちになる。
だが素直じゃない望はそれを雄介に伝えられないでいた。
いつの間にか握られていた手からは温もりを感じる。
久しぶりに恋人の温もりを感じた手。いつまでも離したくはない。だけどまたこの手は離れて行ってしまう。だって雄介はこの仕事が終わったらまた違う土地へと戻って行ってしまうのだから。
「……って、何で、お前はそんなに早いんだよ」
「そりゃ、日頃……鍛えておるからなぁ……まぁ、後は靴が違うって所やろうか?」
雄介はそう言いながら自分の靴を指差す。
「あー。靴の先に鉄板が入っているやつだったのか」
「まぁ、そういう事やね。まぁ、備えあれば憂いなしって事や」
「それで荷物が沢山持って来てるって事なんだな」
「ああ、まぁな。ほら、行くで」
「あ、ああ……おう」
雄介が先に立って歩き始める。
歩いていると、いつも通っていた街並みが今では全く違う所に来てしまったように感じる。あの角にはお店があった筈なのに今はそのお店までも崩れてしまっていて、お店の形も何もない。いつも通っていた商店街だってそうだ。地震の被害というのはあまりにも凄いんだという事を今目で実感した。
病院を出てから一時間。
やっと見覚えのある家が見えてくる。
「あ!」
「おう! 見えて来たみたいやな」
数日振り位なのに何故か懐かしく感じる家。
望は嬉しくなってしまったのか、雄介の手から離れると走り出す。
「……って、おい!」