「おい……そんくらいで転んでたら、また、余震が起きた時に立ってらんねぇぞ」

「そうだぜ、まったく……もし、それが患者さんの治療中とかだったら、ヤバイだろ？」

　和也の方はさっきまで裕実に対して優しかったはずなのに、今度は意地悪なように言っていた。

「気にしないで下さい……いつものことですから」

　そう言いながら裕実は立ち上がると再びベンチの方に腰を下ろす。

「さて、午後からも頑張るかっ！」

　望は気合いを入れると立ち上がる。

　その頃、雄介の方は病院内とは違い、未だに忙しそうに動き回っているのだが、いつものように日が暮れる頃には病院の方に戻ってきていた。

　今は周りにはまったくもって電気はない。だから病院の電気だけが頼りだ。

　そして玄関まで足を踏み入れるとロビーが物凄く明るく感じる。

　今日の作業は物凄く大変だったため、体から今にも悲鳴を上げそうなくらいだ。いや悲鳴を挙げているのかもしれない。肩や腰、いや全身まで痛い。

　その疲れた体を引きずりながら、一階にあるロビーを抜けて望達の部屋へと向かう。

　エレベーターで上へと向かおうとしたのだが、エレベーターには張り紙がしてあった。

『ただ今の時間、節電の為、エレベーターの使用は禁止』

　と。

　雄介はそれに息を吐くと階段を選ぶしかない。だが疲れている体というのは本当に言うことを聞いてくれないものだ。

　いつもなら楽々の階段でさえ、今日はなかなか上がることも出来ず、手すりを使ってまで上がっていくしかなかった。

　何とか雄介は望達の部屋があるフロアーまで来ると、そこにはマンションのようにいくつものドアがある。ここの部屋は看護師と医者が一緒に仕事をしたり寝たり出来るフロアーだ。

　そしてこういう時に限って望達の部屋というのは一番奥の部屋で、今はその距離でさえも遠く感じているようだ。