和也と裕実は座った後、望の姿を探すが、なぜか望は医師側ではなく舞台の方にいた。
「へ? 望は何であんな所にいるんだ?」
和也は独り言のように呟いたつもりだったが、隣にいた裕実には聞こえていたようで、
「吉良先生って……凄く偉い方みたいですね」
「そうなのかな? 俺にはそう見えてなかったんだけどな? って、おいっ! 俺の独り言聞いてたのか?」
「当たり前ですよー。結構、大きい声で言ってましたしね。 そんな声言ってたら、俺の話を聞いてくれ。って言ってるようなもんじゃないんでしょうか? 梅沢さんって意外に天然さんなんですか?」
イタズラっぽく言う裕実に向かって和也は微笑む。
「お前に言われたくねぇよ」
和也は裕実に向かってふざけたように頭を軽く叩くと、会議室が薄暗くなっていく。もう始まるのだろう。
それにしても気になるのは望の存在だ。なぜ望は舞台上にいるのだろうか。
幹部だかの司会で会議が始まる。
そして紹介される医師。
しかし、その人物は今まで不在だった院長らしい。
そして名前は『吉良』という苗字で、和也の中で何かが引っかかったようだ。
「あれ? ここの院長って今まで海外に行ってるっていう噂は聞いていたけど、帰って来たんだな。でも、『吉良』って名前? まさかな!?」
裕実の横でボソボソと言い始める和也に対して、裕実は口を挟んでくる。
「望さんのお父様じゃないんでしょうか? それなら、なんか望さんがあそこの舞台にいる理由が分かりますよね?」