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ー天災ー151

 そして、次の日。


 望や和也、そして裕実までもが屋上にあるヘリポートにやってきて、雄介を見送るために集まっていた。その中には、望の父親でもある裕二もいる。


 今の季節は梅雨の時期だというのに、空は見事に晴れ渡って、雲ひとつない青空が広がっていた。


 ある意味、ヘリコプターに乗るには絶好の日だろう。


 あの震災から数週間。


 数週間前に、雄介がこのヘリポートに降り立った時のことを思い出す。


 あの日、雄介がヘリコプターから降りてきた時、望はその瞬間、雄介の頬を叩いてしまった場所だ。


 この数週間、話し合いをしながらではあったものの、一緒にいる時よりも何だか距離が縮まったような気がするのは気のせいだろうか。


 本当にこの数週間、望と雄介との間に何かがあったわけではないが、楽しくて嬉しくて幸せだった日々も、ここで一旦終わりになる。だがそれは別れではなく離れてしまうというだけだ。


 今は、この空のように二人の心はどこまでも繋がっているのかもしれない。


 そしてこの空のように、心の方も晴れ渡っているのだろう。


 やがてヘリコプターのエンジンが掛けられる。


 それと同時に、雄介は一旦はヘリコプターの方に足を向けたものの、望の方へと走り出してきて、望の手を握る。


「な……目を閉じて……」


 そう、甘く優しい雄介の声に望は大人しく瞳を閉じる。


 そうすると次の瞬間には、唇に温もりと甘さを感じただろう。


 当然、雄介にキスをされたということは分かっている。もう望だって大人なんだから、「目を閉じて……」って言われた瞬間には、そりゃ、キスだということは分かっている。しかし、一応みんなの前なのにも関わらず、望がその受け入れを断らなかった理由は誰にも分からない。

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