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四章ー空間ー1

 あの震災からどれくらい経ったのであろうか?


 今、東京の街は少しずつ戻って来ている。


 流石に望の恋人である雄介は未だ戻って来ることはないのだが、女性ではないのだから、いつまでも恋人のことに関しては考えてはいない。ただ向こうで何事もなく無事で生きていてくれるのなら、それはそれでいいだろう。


 それにゆっくりとだが、雄介がいない日々にも慣れて来た。


 そう、今は便利な物がある。


 それは携帯だ。


 ひと昔前なら携帯なんかなかったのだけど、今の時代は誰もが持っている物。


 例えば、相手が遠くに住んでいたとしても、直ぐに手紙のやりとりみたいなのが出来るメールもある。相手の声が聞きたい時には電話も出来る。


 これがもしひと昔前だったら携帯ではなく家電で相手が家にいないと繋がらなかったものだ。しかも家族が居れば、家族に出られてしまった時にはきっと焦るだろう。


 だが今は本当に便利な時代になった。


 携帯さえあれば直ぐに連絡し合えるのがいい所だ。


 もし、それがなかったら?


 遠距離恋愛のカップルはどうしていたのであろうか?


 家電? 手紙?


 そんなので連絡し合っていたのであろうか?


 そんなある日、望は昼休みになると携帯を持って屋上へと向かい、恋人である雄介にメールを入れる。


 たった一言でもいい。遠くにいる恋人が無事であることが分かればいいのだから。


 そう、望の恋人というのはレスキュー隊で、毎日、命と隣り合わせの仕事をしている。


 この春坂にいる時には消防士だったのだが、今はレスキュー隊員となっていた。


 そして昼休みに望がメールをすると、向こうも大抵昼休みが多いのか返信が来る。まあ、たまに無い時はあるのだけど、そこは雄介の方も仕事をしているのだから仕方がない。でも夕方望が終わる頃には必ず雄介から返信がある。そして雄介が休みの日には望が昼休みが終わるギリギリまでメールをしていることが多い。


 その雄介からのメールというのは望を励ますためなのか、笑える内容が多いのだ。それを糧に望はお昼からの仕事に向けて気合いを入れることができる。


 そして雄介とのメールを時間までいっぱいすると、それをスーツの内ポケットに入れて部屋の方へと戻る望。


 部屋に入ると、和也一人がソファに座っていた。


 ここ最近、和也は裕実と恋人となって昼休みには二人でイチャイチャとしていたようにも思えるのだが、今日はもう何故だか一人だ。


「あれ? 本宮さんは?」

「ん?」


 その望からの質問に和也は望の方に視線を向ける。


「裕実は今日から違う医者のとこー」

「あ! そうか! そうだったのか……」


 そう、和也の言葉に納得する望。


「そうなんだよな……丁度、今日からアイツは違う医者の所に行っちゃったんだよな」


 そう、つまらなそうに答える和也。


「あ、まあ……そうだったな」

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