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ー空間ー177

 そう言うと、慌てた様子で望は電話を切って処置室の前へと急ぐ。


 ストレッチャーで出てきた雄介。そこに望は追いつくと、いつもの癖かのように、


「桜井さんの容態は?」


 と聞いてしまっていたのだが、特に看護師さんの方はそんなことに気を止めることなく、


「大丈夫ですよ。傷の方はそんなに深くありませんでしたからね。ですが、確かに出血量は多かったようですが、それは、きっと背中を切られたからだと思います。もう輸血もしていますしね」

「望、そんなに心配せんでも大丈夫やって! 俺には望がいるから、不死身やしな」


 そうストレッチャーの上で言っているので、望は下へと視線を向け、今度は真面目な表情で、


「あのな、人間は不死身なんてことはないの。ただ単にお前の避け方が上手かったからだろ? それで、傷口が浅く済んだって話だろうが……」


 何気ない望の言葉に雄介は軽く微笑む。


 そして、雄介は今度は看護師さんの方に視線を向けて、


「もう、看護師さんええで……後は通院すればええんやろ?」


 雄介はそう言いながら、ストレッチャーの上で半身を起こす。


「まぁ、先生もそう言っておられましたし、いいんですが……でも、病院で少し様子を見られた方がいいのではないでしょうか?」

「そこは大丈夫やって! 俺の連れが医者やしな。何かあったらこいつに頼むし、ほな、また今度……」


 そう雄介は看護師に告げると、今まで死んでいたのが嘘のようにストレッチャーから身軽に降りる。そして、望の背中を押して病院から出て行く。


 今度はタクシーを呼んで再び空港の方へと向かう二人。


 てっきり望は雄介の家に向かうのかと思っていたのだが、雄介がタクシーの運転手さんに告げた場所は空港だった。


 そこに疑問を感じる望。


「何で行き先が空港なんだ?」

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