会話がなくなった室内に、雄介がガスコンロに火を点ける音だけが響き渡る。
そして、雄介は火を点けると望の前へと腰を下ろし、再び二人の視線がぶつかってしまった。
だが、今日の二人は会話も弾まなければ、雄介が望にちょっかいを出してくることもない。
望は頭の中で何か会話がないかと探り始めるが、思考を雄介ではなく違う方へと向けたその途端、望は、
「あー!」
望は何かを思い出したのであろう。その途端に部屋内に響き渡るような大声をあげる。その望の大声に、雄介がびっくりしたような表情で望のことを見つめていた。
「……って急になんやねん! 大きな声出してー」
望は急に怒ったような表情になると、雄介のことを真剣な瞳で見つめ指を指す。
「お前さ……今すぐに病院に行けっ! まだ、背中の治療が終わってないだろうが……」
「はぁ!? 何言うてんねん! なんで、こういう時に限って病院に行かなあかんの? 今日は望とデートする日やって決めておったんやからな」
そう言う雄介なのだが、余計に望のことを怒らせてしまったようだ。
先程よりもさらに瞳を座らせ、望は雄介のことを見上げる。
「……あのさ……全くもってお前は医療のことについて分かってねぇわけ? だから、そんなふざけたようなことを言ってられんだよっ! それに、医者と約束して来たんだろ? 入院しない代わりに通院はしますって……それにまだ薬だってしっかりと貰ってきてる訳じゃねぇんだろ? だったら、直ぐに行け! って言ってるんだよっ!」
さっきまでの重苦しいような雰囲気はどこに行ってしまったのであろうか? それが望のおかげでというのか? 望のせいでというのか? 急に空気も変わってしまったようだ。
「せやけど……デー……」