「そんなこと言ってる場合じゃねぇって言ってんだろうが! それが元で他の病気になっても知らねぇぞ! 実際にそういうことっていうのはあり得るんだからなっ!」
雄介は望の言葉にため息を吐くと、立ち上がって残りのコーヒーを飲み干し、
「ほなら、望のコーヒーは後からな。ほな、着替えてくるしー」
「ああ……」
そう言うと、雄介は一旦コンロの火を消す。
そして、望は椅子に寄り掛かり腕を組む。
雄介がリビングを出ようとした直後、望がこうボソボソと口にする。
「あ……病院までの車の運転、俺がするからさ……」
あまりにも小さくて聞き取りにくかったが、しっかりと雄介の耳には届いていたようで、雄介も小さな声で、
「ああ……」
と答えてから二階へと上がる。
その間、望はこの静かな空間で雨音を聞きながら雄介が準備できるのを待っていた。
今日は雨。今の望の心のようだ。雨というのは逆に羨ましいと思う。たくさんたくさん人目を気にせずに泣けるのだから。悲しいことがあったって男性というのはそうそう泣くことなんてできない。だから望は雨が羨ましいと思ったのであろう。
望がそうぼーっと待っていると、数分後には雄介が戻ってくる。
「ほなら、望も着替えて来な」
雄介は洋服に着替えてきたようで、またさっきの場所に腰を下ろしていた。
「ああ、そうだな」
望は雄介の言葉に返事をすると、二階にある雄介の部屋へと向かう。
しかし恋人同士でもある雄介と望。しかも二人は男同士だ。それなのにも関わらず、二人は一緒に着替えに行かなかったのであろうか?
多分、雄介は望が誰かと一緒に着替えるのを嫌っているのを知っていたからなのかもしれない。
雄介はもうそんな望の性格を知っていたからこそ、今回は一人で着替えに行ったのであろう。それに、もう、それだけ望のことを知ってきたのだから、望が嫌がることはしないようにした方がいいと思ったのかもしれない。