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ー空間ー231

 そこは最後まで聞きたかったはずなのに途中で止められてしまった。きっと望の中では迷っているのだろう。それを雄介に聞いていいのか? いけないのか? いや、きっと望の性格からしたら聞けないのが正しいのかもしれない。


 だが、そこは望が聞かなければ和也が聞いてくれるだろうと思ったのだが、今日の和也は一向に口を開こうとしなかった。


 望が和也の方に視線を向けると、和也は診察室にあるベッドの端に座り、顔を俯けて腕を組み、小刻みに体を震わせている姿が目に入った。


 きっと望の心の中では「はぁ!? 何で、言ってくれないんだよ!」という状態だろう。


 そんな和也の姿を見て、望は雄介に掛ける言葉を一生懸命頭の中で探していた。


 だが、雄介はそんな望を尻目に、


「ほな、前にも望に言われた事あったし、ここでは長居できへんしな……ここで俺は行くわぁ」


 それだけを言い残し、雄介は出て行ってしまった。


 やはり今の望でも雄介には何も聞くことができなかったのだろう。


 雄介が去った後、和也はベッドの端から降りると、


「ったく……雄介の奴、何のためにここに来たんだろうな? やっぱさ、最後のお別れに望の顔を見に来たのかもしれねぇよな?」


 和也は望の肩にポンと手を乗せ、慰めのつもりで言ったのだが、和也の最後の言葉に望の何かが癇に障ったようで、


「アイツがそんなことを言いにわざわざここに寄るはずないだろっ!」


 そう強く言い放つと、望は和也の腕を振りほどき診察室のドアを開け待合室まで出たが、既に雄介の姿はなかった。


こんな中途半端な別れ方なんか嫌に決まっている。


今まで以上に会えないなんて信じたくもないことだ。


だが今の望は仕事中だ。雄介を追い掛けることもメールをすることもできない。

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