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ー雪山ー56

「せやな、毛布は一枚でええんか?」

「ああ……」


 望はそう雄介に一言だけ返すと立ち上がる。


 さっきの傷は少し血が固まったくらいだろう。血が出ている時に比べれば、多少は痛みが和らいだような気がする程度だ。


 望は足の様子を見ながら、ゆっくりと窓側へと歩を進める。


「ほなら、毛布持ってくるな」

「ああ……」


 望は部屋を出て行く雄介に手を振りながら、先に絨毯の上へと横になる。


 そこから窓の外に視線を向けると、今日は真っ青な空が広がっていた。


 今日は雲一つない快晴だ。


 本当に空をこんなにゆっくりと眺めたのは、いつぶりくらいなんだろうか。


 今は仕事、仕事で毎日が忙しすぎて、こうのんびりと空を眺める暇なんかなかったような気がする。


 そして、気持ちがいいことに、窓際に向かうと太陽の暖かさが望の体を包んでくれているようだ。


 そんな気持ちのいい気温の中、


「やっべー、マジに眠くなってきた」


 昼になる前のこの静けさの中で聴こえてきたのは、ヘリコプターのプロペラ音だ。


 そのヘリコプターのプロペラ音も、本当にいつぶりくらいに聞いたのであろうか。っていうくらい聞いていなかったのかもしれない。


 そのプロペラ音が眠気を誘っているような気がする。


「望ー、毛布持ってきたでー」


 そう言うと、雄介は望の隣へと横になって望と一緒に空を見上げる。


「今日の空はめっちゃ青空なんやなー」


 その雄介の言葉に、頭だけをコクリと頷かせる望。


「こうたまには静かな時っていうのはええもんなんやなぁ」


 その雄介の言葉に再び頭を頷かせる望。


 いつもだったら、本当にこんなのんびりとした時というのはない。だから、こんなのどかな時間を過ごすのは本当に久しぶりなのかもしれない。


 望は体を横向きにさせると、まだ仰向けで寝ている雄介に向かい微笑む。


 そうすることで、久しぶりに雄介の横顔が見れたような気がした。その頰に触れたいと思うのだが、やはりまだ望にはそんな勇気はなく、ただただ雄介の横顔を覗いていることしかできなかった。


 雄介はその望の視線に気付いたのか、ゆっくりと首だけを動かし、


「ん? 何?」


 そう聞かれた望は、急に慌てたように天井へと視線を向けてしまうのだ。

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