少ししても観覧車は動く気配がなかった。
和也は望の様子を聞くために、もう一度裕実にメールを入れる。
すると、返事はすぐに返ってきた。
『状況は非常にマズいです。まだ、望さんの意識は戻る気配がないんですよ』
流石にその裕実からのメールに、和也は顔色を変える。
流石に、意識がないままの状態で数分が過ぎているのは、裕実の言う通りマズいであろう。一刻も早く望だけでも地上に下ろしてやりたいところだが、観覧車の頂上付近では何もすることができない。
もうこうなったら、和也は雄介には本当のことを話さずにいたのだが、雄介に望の今の本当の状況を話さなければならないのかもしれない。
今、頼りにできるのは雄介しかいないのだから。きっと、和也の中でも、こういう状況のときはレスキュー隊員でもある雄介に頼りたいという気持ちがあるのであろう。
そんな雄介は琉斗を膝の上に座らせたまま、窓の外を眺めているだけだ。もちろん、雄介は望がそんな状況になっていることは知らないので、観覧車が動くまで大人しくしていた方がいいだろうと思っているのだろう。
琉斗の方も今のこの状況において、子供ながらに冷静なのかもしれない。全く騒ぎもせず、雄介の膝の上で大人しくしているのだから。
そんな中、和也は意を決したように立ち上がり、雄介に向かって頭を下げると、急に言った。
「とりあえず、お前に謝らなければならないことがある。ゴメン……さっきは嘘をついた。望のことなんだけどさ、望の奴、今、頭を打ったみたいで意識がないって裕実から連絡があったんだ。これを雄介に話したら、お前のことだから、危険を顧みず望のところに行くと思ったから言わなかったんだけど、今、望のことを助けられるのはレスキューで鍛えているお前しかいないんだよ。だから、できるなら……望のことを一刻も早く地上に下ろしてもらいたいんだ」
雄介は一つ溜め息をつくと、言った。
「やっぱ、そういうことやったんか……そんなことやろうと思ってたで……」
雄介は琉斗のことを和也に任せ、
「こういう時の訓練はやっとるし、大丈夫やって。俺に任せてくれたらええしな」
雄介はいつもとは違う真剣な顔になり、
「ちょっと離れといてな……」
雄介はそう言うと、プラスチックでできている窓を割るために拳を握った。
確かに訓練で観覧車に事故が起きた場合についてはやっていたかもしれないが、それはあくまで色々な装備や道具を持っている場合であって、何もない中での救助はやったことがない。