和也は受話器にしっかりと耳を当て、
「って、裕実……望はどんな状態なんだ?」
その和也の言葉に、傍にいる雄介が反応しない訳がないだろう。
「和也……望になんかあったんか?」
雄介は顔色を変え、声を震わせてまで和也に聞いてくる。
そんな雄介の様子に、和也は気付き、裕実の言葉をきちんと聞くために、一旦、雄介に静止を求めるかのように人差し指を口元に当て、静止を求めた。
それから和也は裕実の言葉を一語一句逃さず、真剣に聞き始める。
「ああ、分かった……ありがとうな」
そこで一旦、和也は電話を切ると、雄介の方に顔を向け、
「とりあえずは望も大丈夫みたいだぜ……確かに怪我はしたみたいだけど、大したことないってさ」
和也は雄介にそう告げると、椅子に腰を下ろす。
とりあえず今は、救助を待つか観覧車がまた動き出すのを待つしかないだろう。
和也は窓の外を見つめ、望達が乗っているゴンドラの方へと視線を向けるが、やはり状況は先程とは変わっていない。
しかし、望は本当に大丈夫なのだろうか。
実は、和也が雄介に伝えたことは全くの嘘である。
裕実が言っていたのは、望にしては珍しく観覧車に乗ってはしゃいでいたのだが、立ちながら周りの景色を楽しんでいたらしい。だが、その途中、ゴンドラが急停止してしまったため、バランスを崩した望は運悪く、頭を椅子の角でぶつけてしまい、今は意識もないということだ。
和也達が乗るゴンドラから望達が乗っているゴンドラは確実に見えない。その状況が良いのか悪いのかは分からないが。
そのことを雄介に言えば、雄介は自分の身を顧みず、何とかして今乗っているゴンドラから降り、望達がいるゴンドラに向かうだろう。それは間違いだ。
だから和也は、雄介がそんな危険な目に遭うことを避けるため、瞬時に頭の中で判断し、雄介には望は大したことがないということを伝えたのである。