一回ではプラスチック製の窓は割れず、雄介は何度も力を込めて拳を窓に打ち込んでいた。そしてやっとのことで窓は割れ、一先ず安堵する雄介。雄介が階下を覗き込むと、下には消防車や救急車が来ていた。
どうやら観覧車は、遊園地側で動かせる状況ではなくなってしまったらしい。だから、もう救助車で乗客を下ろすしかなくなったのであろう。
雄介は望たちがいる観覧車の上には来られたものの、足場がないこの状況では窓を割ることもできずにいる。
「ロープがあったんなら、足使って割れたんやけどな」
何も考えずに降りてきてしまった結果がこれだ。
雄介がしばらくの間、望たちが乗っているゴンドラの上にいると、観覧車に備え付けてある非常用階段からレスキュー隊が登ってきたらしい。
「お客さん! 危ないですよ! そんな所にいたら」
「分かっとるがな! お前らが来んのが遅いやろが……。とりあえずな、こん中に要救助者がおんねんって!」
「そうなんですか!? 分かりました……そこは私が担当いたしますので、貴方は先に私たちと一緒に降りていただけませんか?」
「アホか! この中に好きな人がおんねんのに、さっさと俺だけが降りれる訳がないやろ!?」
「しかしですね……一般の方を助けるのが我々の仕事ですから」
「俺も春坂レスキューのレスキュー隊員やって」
「そう言われましても……今日は非番かなんかの日で、レスキュー隊員ではないんじゃないんでしょうか?」
雄介の勢いに対し、冷静に判断したレスキュー隊員は声を荒らげることもなく、淡々と雄介を説得しているようだった。
そんなやりとりを、和也は上のゴンドラで聞いていたらしい。
「雄介! とりあえず、お前はレスキュー隊員の言う通りに先に降りろ! そこで言い合っていたって、いつまで経っても望のこと助けられないだけだぞ!」
やっと雄介はその和也の言葉に納得したのか、仕方なく非常階段へと向かい、ゆっくりと地上へと降りていく。
と、その時、上空には消防庁のヘリ部隊が到着し、観覧車上空でホバリングを繰り返していた。
ヘリへと運ばれる要救助者と、自力で階段へ向かえる要救助者とで分けるのであろう。