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ー決心ー36

「ま、流石にダメだとは分かってたけど。そんなこと言われて諦める僕じゃないからねぇ。 こんなチャンス滅多に無い訳だしー」


 そう言う歩夢に、雄介は溜め息を吐くと駅に向かい、再び歩き始める。


「じゃあさぁ、どうしたら、雄兄さんの家に僕のことを入れてくれる?」


 その質問に雄介は一瞬、吹きそうになったのだが、再び無視して歩き続ける。


「ねぇ、無視しないでよー。無視したら、僕、叫ぶからねー……『このお兄さんに暴力振るわれたー!』って……」

「何で、そうなんねん……俺は何もしてへんやんか……」


 雄介は歩夢の言葉に振り向くと、歩夢の顔を睨み付ける。


「やっと、振り向いてくれた」


 歩夢は目を輝かせていたのだが、


「それは違うやろー。お前がおかしなことを言うからやろうがぁ」

「でも、『振り向いてくれた』ってのは間違ってないでしょ」

「まぁ、そやけど!」


 歩夢と話をしているだけで、雄介はどうやらイライラしているようだ。


「なら、雄兄さんの家に入れてくれないんなら……叫ぶからねぇ」

「叫ぶってなんやねん……」

「ん? 『僕の体を触ってきたー!』って……。そしたら、雄兄さんはどうなると思う?」


 その歩夢の質問に、雄介は頭を掻くと、


「ホンマにお前って、卑怯やなぁ! そんなこと言われたら、お前を家に入れなきゃなんなくなるやんかぁ」

「そういうこと!」

「そういうことじゃないやろ!?」

「今までは兄さんが居たから、雄兄さんと二人きりになれなかったけどー、兄さんがいない時にはねぇ」

「あー、勝手にしろや!」


 雄介はそう言うと、再び家に向かい歩き始める。


「はいはーい! 勝手にしますよー」


 そう歩夢は嬉しそうに言うと、雄介の後に付いて歩くのだ。


 二人に会話が無いまま駅に着くと、自動改札を抜けて行く。


 暫くして電車がホームへと入って来た。


 相変わらず夕方の電車というのは混んでいる。朝のラッシュ時に比べれば多少は空いているものの、次は大きな駅で人が乗って来る可能性がある為、ぎゅうぎゅう詰めの状態は免れないかもしれない。

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