「ま、流石にダメだとは分かってたけど。そんなこと言われて諦める僕じゃないからねぇ。 こんなチャンス滅多に無い訳だしー」
そう言う歩夢に、雄介は溜め息を吐くと駅に向かい、再び歩き始める。
「じゃあさぁ、どうしたら、雄兄さんの家に僕のことを入れてくれる?」
その質問に雄介は一瞬、吹きそうになったのだが、再び無視して歩き続ける。
「ねぇ、無視しないでよー。無視したら、僕、叫ぶからねー……『このお兄さんに暴力振るわれたー!』って……」
「何で、そうなんねん……俺は何もしてへんやんか……」
雄介は歩夢の言葉に振り向くと、歩夢の顔を睨み付ける。
「やっと、振り向いてくれた」
歩夢は目を輝かせていたのだが、
「それは違うやろー。お前がおかしなことを言うからやろうがぁ」
「でも、『振り向いてくれた』ってのは間違ってないでしょ」
「まぁ、そやけど!」
歩夢と話をしているだけで、雄介はどうやらイライラしているようだ。
「なら、雄兄さんの家に入れてくれないんなら……叫ぶからねぇ」
「叫ぶってなんやねん……」
「ん? 『僕の体を触ってきたー!』って……。そしたら、雄兄さんはどうなると思う?」
その歩夢の質問に、雄介は頭を掻くと、
「ホンマにお前って、卑怯やなぁ! そんなこと言われたら、お前を家に入れなきゃなんなくなるやんかぁ」
「そういうこと!」
「そういうことじゃないやろ!?」
「今までは兄さんが居たから、雄兄さんと二人きりになれなかったけどー、兄さんがいない時にはねぇ」
「あー、勝手にしろや!」
雄介はそう言うと、再び家に向かい歩き始める。
「はいはーい! 勝手にしますよー」
そう歩夢は嬉しそうに言うと、雄介の後に付いて歩くのだ。
二人に会話が無いまま駅に着くと、自動改札を抜けて行く。
暫くして電車がホームへと入って来た。
相変わらず夕方の電車というのは混んでいる。朝のラッシュ時に比べれば多少は空いているものの、次は大きな駅で人が乗って来る可能性がある為、ぎゅうぎゅう詰めの状態は免れないかもしれない。