「ま、それは置いておいてー。雄介は望がいなくても絶対に大丈夫だと思うぜ」
そう和也が笑顔で望に向かって言うと、望はその笑顔に少し安心したのか、
「そうだよな……雄介なら、大丈夫だよな」
「大丈夫、大丈夫!」
「雄介が大丈夫なことを信じて、俺たちは明日の昼まで仕事だぞ!」
「ああ、分かってるって!」
二人は気合いを入れると部屋を出て、まず診察室へと向かった。
その日の夕方。
望たちの予感は的中していたことを、まだ二人は知らない。
昨日同様に歩夢は雄介が通う大学の校門で彼を待っていた。
大勢の生徒が校門から出てくる中、一人だけ他の人よりも頭一つ分背が高い男性がキャンパスから現れる。
「雄兄さーん!」
歩夢は雄介の姿を捉えると、手を振りながら名前を呼ぶ。
その声に気付いた雄介は歩夢に向かって走り寄った。
「ちょ、お前なぁ、恥ずかしいやんかぁ」
「だから手を振って雄兄さんの名前を呼んだんだよ! そうそう、雄兄さんを呼ぶためにね!」
「はい!?」
「僕の意味分からない? 僕が雄兄さんに向かって手を振れば、雄兄さんは恥ずかしいってことになる。けど、僕を黙らせるために雄兄さんが僕のところに来るっていう計算なんだけどな!」
そんな歩夢の言葉に、雄介は溜め息を漏らす。
まさか歩夢がそこまで計算して行動していたとは思いもしなかった。
結局、今日も雄介は歩夢に捕まり、一緒に駅へ向かうことになった。
しかし、雄介は歩夢より先に歩き、彼を無視することを決め込む。だが、歩夢は雄介の後ろから追い続ける。
「雄兄さん!」
後ろから大きな声で名前を呼ばれる雄介。
それでも無視を続けようとしたが、あまりに大きな声で呼ばれたため、仕方なく振り向いた。
振り向くとそこには、満面の笑みを浮かべる歩夢の顔が飛び込んでくる。
「なんやねん……」
「あのさぁ、今日は兄さんがいない日だよねぇ?」
「それが、どないしたん?」
「やっぱり兄さんいない日なんだね。ならさぁ、今日、雄兄さんの家に行っていい?」
「はい!? ええわけないやんか……」