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ー決心ー39

 今、雄介がいる場所から春坂病院までは、それほど遠くはない。寧ろ、走れば五分も掛からない場所であろう。


 雄介は急いで春坂病院に向かうと、夕方だけあってか、もう既に緊急用入口しか開いていなかった。


 病院内に入ると、雄介は夕方から専用の診察室へと向かう。そして診察室のドアを開け、息を切らしながら、


「望!」


 望はその声に振り向いたものの、雄介の姿を見ると急に目を座らせ、


「お前なぁ! 前から言ってんだろうがー! 何でもないんなら、来るなって!」

「ハァ……ハァ……そうやなくてな……。そりゃあ、俺だって、何でも無ければ学校帰りにわざわざここまで来ぇへんって……。とりあえず、あ、歩夢がな……誘拐されてもうたんやって!」

「……はぁ!?」


 雄介の口から耳を疑うような言葉が発せられ、望もそこにいた和也も裏声を上げる。


「詳しく説明するとやなぁ……今日も相変わらず、歩夢が学校の校門前で待っていた訳や……春坂駅までは一緒やってんやけど。問題は春坂駅を降りてからやってん。俺が先に歩いておったら、急にアイツの気配がなくなってもうて、そしたら、ワゴンの後部座席の窓の方から、コレが飛んで来たんやって」


 雄介はそう言うと、ポケットから春坂病院のストラップを取り出し、望達に見せる。


「春坂病院のストラップか!?」

「このストラップはスタッフと歩夢位しか持っていなかった筈……」

「せやろ? ほんで、そん時に行ってもうた車のナンバーを一応、頭の中に控えておいてんねんけど。とりあえず、歩夢が消えてから直ぐに望や望の親父さんに電話したんやけど、どっちも出られんようやったから、直で病院まで来た方が早いって思うて、ここまで来たって訳や」

「そういう事だったのか……分かった。とりあえず、俺が親父んとこに行って来るからよ」


 そう言って望が立ち上がろうとした時、


「望の親父さん、さっき、緊急手術じゃなかったか?」

「あ! そうだ!」


 望は和也にそう言われ、裕二が今は手術室にいることを思い出す。


「俺も診察室に居なきゃだし、親父は手術室だしな」


 望は急に悩み始める。


 今の望というのは、患者さんのことを放ってまで裕二に歩夢のことを知らせに行くか、歩夢を取るかという究極の選択なのだから。

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