望はそこで暫く考えていたが、何かを急に思い出したのか、そばにあった受話器を手に取り、早速誰かに電話を掛け始める。すると、相手が応じてくれたようで、望は安堵の表情を浮かべた。そして、電話で話を通すことができたらしい。
電話を終えた望は、軽く息を吐くと、そのまま診察室にある椅子へと腰を下ろす。
「とりあえず、新城先生には話した。そしたら、新城先生が俺と交代してくれるって言ってくれたからさ。とりあえず、俺は新城先生に代わって貰う事にするよ。で、まぁ、あんま探す気はねぇけどさ、一応、歩夢は俺の弟なんだし、とりあえず探しに行かなきゃなんねぇみたいだしさ。まだ親父にも連絡行ってねぇし、犯人から何か要求があった訳じゃあねぇから、とりあえず、空いてる俺が歩夢の事を探しに行かなきゃなんねぇんだからよ」
「……だな。とりあえず、今は手が空いてる雄介と望で歩夢の事を探しに行かなきゃなんねぇみたいだしな」
「せやな……ほな、新城先生がここに来てくれたら、俺等は歩夢を探しに行こか!」
「とりあえず、それしかないみたいだしよ」
「せやな」
その話が決まってから五分もしないうちに、颯斗が白衣を着て診察室へと現れた。
望は安堵し、颯斗に診察室を任せると、雄介と一緒に診察室を後にした。自分の部屋へと向かい、雄介と向かい合う形でソファに腰を下ろす。
「しかしなぁ、今はまだ手掛かりと言えるのが、黒いワゴン車から落とされた歩夢のかもしれない病院のストラップと、雄介が覚えている犯人の車のナンバーしかねぇんだよな?」
「ま、確かにそうだな……車のナンバーも、ある意味確かな物ではねぇかもしれねぇんだよな?」
「まぁ、そうやろなぁ。盗難車っていう可能性もある訳やしな」
「……ってか、診察室の方は新城先生に任せてきたからいいんだけどさ。これから、どうやって歩夢の事を探したらいいんだろ?」
「あー……そうなぁ、流石に俺等は警察やないんやし、そういう知識みたいなのは流石に無いなぁ」
「……だよな」
二人はそこで行き詰まる。
そんな時、望と雄介の部屋のドアがノックされ、同時に一人の人物が入って来た。
「望さん! 話は新城先生に聞きました!」
「……裕実?」
望はその声に驚き、ソファから立ち上がる。望の部屋に来てくれたのは裕実だった。
和也は颯斗のことをあまり好きではないと言うが、裕実と颯斗に関してはそうではないようだ。好き嫌いではなく、医者と看護師として良いコンビネーションを見せているのかもしれない。
望は確かに颯斗に交代を頼んだ。しかし、颯斗が裕実にまで連絡してくれているとは思っていなかった。
「とりあえず、歩夢君が誘拐されたかもしれないっていう話は新城先生から聞いてますよ」
「あ、まぁ、そうだな……とりあえず、来てくれてありがとな。でもさ、俺と雄介で探せればいいかなって思うんだけどよ」
「でも、やはり人数が多い方が探しやすいんじゃないでしょうか?」
「ま、確かにな……」
望はもう一度ソファに腰を下ろし、腕を組んで首を傾げて考え込む。裕実も何か良い案を出そうと考えているようだった。