望は部屋一つ一つを覗いてみるが、やはり和也どころか全く人の気配がこの階にはなかった。
望と雄介が各部屋を覗いていると、ここはかつて病棟で、どうやら病室だったようだ。そこにはベッドが置いてあり、埃を被っていた。
だが、しかし、この階を一周してみても誰かいる気配はない。
すると、さっき職員用出口だった方から車のエンジン音が聞こえる。二人は慌てて五階の窓から下を覗くと、一台の車が走り去っていく。
「望! あの車! 歩夢が乗せられた車やって!」
「……へ? ってことは、和也もどこかに連れてかれちまったって事か!?」
「ま、その可能性は高いっちゅう訳やな」
「……って、ことは、もしかして歩夢が監禁されているかもしれない場所っていうのは他の所かもしれないってことになるのか?」
「そういうことなんかな?」
二人は一旦、病室から出ると廊下へと出る。
「でも、今、車が走っていった方向って、港がある方面やったような気がすんねんけどな?」
そう話をしていると、さっき二階の廊下で会った白衣を着た男性が望達が居る所へと近づいて来る。
「また、君達かい? さっきっから、君達は何をしているんだい?」
「あ、いや……僕達は病院内で道を迷っているだけでして、本当、すいません!」
「今日はね……実は、ウチの病院で危篤な患者さんはいない筈なんですけね。 今はむしろ、君が働いている病院に患者さんを持っていかれている位だしね!」
その意味ありげな言葉に、雄介も望も気付かない訳が無いだろう。
雄介は望の手を取ると、一目散に走り出す。
「やっぱり、そうやったんや! さっき、二階でアイツに会った時から、おかしなこと言うとったやろ? やっぱ、アイツも誘拐犯の仲間やったんやって。とりあえず、望! 一旦、この病院から急いで出るで! 俺達までも捕まってもうたら、歩夢や和也を探し出す奴がいなくなってまうしな」
「あ、ああ……」
だが、どうやら、そう簡単にはこの病院から望達を出してくれなさそうだ。望達がさっき使っていた階段を降りていると、何故か下から誰かが駆け上がって来る音が聞こえてくる。
「下から駆け上がって来る奴って、看護師や医者じゃあらへんよな?」
「多分な……だってよ……基本、病院内は何があっても走っちゃダメなんだしな」