望は雄介に続き、窓の縁に手を掛け、自分の体を引き上げようとしたのだが、やはり普段鍛えている雄介とは違い、望は鍛えていないだけあってか、自分の力では体を持ち上げることができないようだ。
「望! 便器に足乗せたら、少しは上がりやすくなるやろ?」
「あ、ああ、そうだな……」
それでも、先程より三十センチ縮んだだけで、腕の力が無ければ上がれないのかもしれない。
「ゴメン……雄介……俺の腕の力では、この窓まで上がれねぇんだけど……」
「……へ?」
雄介は少し考えると、望に向かい、
「ほなら、望、その個室で待っとってー」
「って、どうするんだ?」
「もう一度、俺がそこに戻って、望のことを先に押し上げるし」
雄介が言っている意味が分かったのであろうか、望は個室の中へと戻った。雄介は再び望が居る個室へと戻って来る。
「望、窓の縁に手かけて……」
「あ、ああ……」
望は雄介に言われた通りに手を窓の縁へとかけ、それを雄介が下から支えて望の体を持ち上げた。すると望は簡単に窓から外へと出ることができたのである。
そして、雄介も先程と同じように窓の縁に手を掛けた途端、後ろの方から声が聞こえて来る。
雄介はその声に反応し、後ろを振り返ると、そこには先程から追い掛けて来ていた犯人の姿が目に入った。
雄介は急いで窓を登り切ると、望の腕を取り、一階の屋根の上から地面へと飛び降り、走り出した。
やっとのことで病院から離れることが出来た二人は、誰もいない公園で息を整える。
「しっかし、和也と歩夢は何処に連れてかれたんやろか?」
「あの倉庫と病院じゃないとすると、全く想像がつかねぇよな」
「あ、ああ、せやな……?」
雄介は目を宙に浮かせると、
「な、望……この分だと、やっぱ、あの病院の奴らが歩夢のことを誘拐したことが高くなる訳やろ? ってことは、望の親父さんは大丈夫なんやろうか?」
「……俺の親父!?」
「お前の予想やと、お前の親父さんは話つけに、この病院に来たんやろ? せやったら、望の親父さんも危ないんと違ゃうかなぁ? って思うたんやけどな」