目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

ー決心ー63

 と次の瞬間、雄介が望の体を抱き締めてきた。


 一瞬の出来事で何が起こったか分かっていない望は、口をパクパクとさせているだけで、何も言う気配がなかった。


 きっと望の頭の中は、今の瞬間だけ思考停止状態になってしまったのだろう。


「あ、……ちょ、え? ゆ、雄介……?」

「ん? 何?」

「あ、あのさ……」


 やっと思考が戻ってきたのか、望は雄介から離れると、


「お前……まさか、起きてたのか?」

「あー、せやなぁ、望からのキス……めっちゃ嬉しかったしな」

「……って、いつから起きてたんだよー!」


 急に望は焦りだし、雄介のことを見上げる。


「ずっと、起きておったで……目瞑っておったけどな」


 そう雄介は笑顔で言うのだが、まさか望自ら雄介にキスをしたことが本人に気付かれているとは思っていなかったであろう望は、未だに焦っているようだ。


「目瞑ってただけって……ってことは寝てなかったってことなのかよー」

「まぁ、そういうこっちゃな。 ま、ホンマは寝よう思うたんやけど、寝れんかったってのが正確なんかな? しかし、アレやなぁ、まさか、望からこないなことしてくれるなんて思うてなかったわぁ。 まぁ、ベタって言えばベタなんやけどな」


 望は溜め息を吐くと、


「あ、まぁ……いいんだけどよ……」


 そう言うと、望は先ほど寝る前にテーブルの上に置いておいた眼鏡を取り、それを掛けると二階へと上がっていく。


 雄介からしてみたら、今の望の行動が不思議で仕方ない様子だ。実際、首を傾げてしまっているのだから。


 そう、いつもの望なら雄介がそんなことを言ったら、完全に怒ってなんか言ってくると思ったのだが、今回は何も言わずに望は上に行っただけだったのだから。


 だが、それはどういう意味なんだろうか。


 怒っているのか、それとも喧嘩をしたくないから上に行ったということなんだろうか? そこは、まだ分からないのだが、いつもの望と違う感じがしているのは気のせいだろうか。


 だが雄介は、喧嘩したくないと思う方にかけて、望の後を追い二階へと向かう。


 たった一時間しか寝ていないのだけど、寝る前に『今日はドライブに行く』ということを約束したのだから、行った方がいいと思ったからなのかもしれない。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?