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ー決心ー80

「あ、ああ、分かった。雄介は何するんだ?」

「俺はエビとかの準備するしなぁ」

「そっか……分かった」


 雄介の手際の良さを見ながら、望は改めて感心する。


 望も少しは料理経験があるものの、自分が作るのは冷やし中華や簡単な料理ばかり。包丁を握るのも久しぶりだ。


「望って、案外不器用みたいやな……しかも、その握りが……」


 雄介はそこまで言うと、急に吹き出して笑い出した。


「な、なんだよ!」

「いや、包丁はそう持つもんちゃうで。いや、間違いじゃないけど、それやと切りにくいやろ。それに、その持ち方って……メス握る時の握り方やん?」


 雄介は「メス握り」という言葉に笑いが止まらなくなったらしい。


「し、仕方ねぇだろ! この握りで癖がついてんだからさぁ!」


 人生で初めて包丁の握り方を指摘され、望は顔を赤くする。


「そやな、癖はしゃーない。でも、こうした方が切りやすいで」


 雄介は望の包丁を持つ手をそっと包み込み、優しく教えた。


「ほら、こうやって持つと力が入りやすくて安定するやろ?」

「あ、ああ、た、確かにそうだな……」


 教えられた通り握り方を直すと、望は驚くほど軽快なリズムで野菜を切り始めた。雄介ほどではないが、明らかに効率が上がっている。


「雄介、野菜切り終えたぜ」

「ありがとうな。後は衣付けて揚げるだけやし、望は休んでてええよ」

「そうだな……揚げ物は一人でやる方がいいもんな」


 望は再び席に戻るが、雄介の背中に一言だけ声を掛ける。


「でも、火傷には気を付けてくれよ」

「大丈夫やって。料理してて怪我すること、あんまりないしなぁ」

「それならいいけどさ……ま、もし怪我した時は俺がいるから安心しろよ」

「ほな、その時は望に治療してもらうわ」

「俺が家でできるのは応急処置くらいだけど、それで火膨れとかできなければ病院に行く必要もないからな」

「ほう、今はそんな応急処置あるんか?」


 雄介が興味深そうに振り返る。望は少しだけ得意げに続けた。


「今は冷やし方とか保湿剤の使い方とか、火傷でも簡単に治せる方法が結構あるんだよ。ちゃんと処置すればほとんどの場合、病院に行かなくても大丈夫なんだ」

「へぇ、知らんかったわ。やっぱ望は物知りやなぁ」


 望は少し照れた様子で視線をそらし、雄介の調理する姿を再び眺めた。

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