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ー決心ー79

「……ってか、さっき言うたやんかぁ。今日のメニューは天ぷらやってなぁ」

「そうだったな……忘れてたぜ」

「たまに望って、うっかりさんの時あるなぁ。つーか、仕事の時はしっかりしとるのに、プライベートはどこか抜けてるっていうのかな?」

「仕事で張り詰めてる分、プライベートではどこか気が抜けてるのかもしれねぇな」

「せやな……ま、また、そこが可愛い点なんやけどな」


 望は雄介の言葉に溜め息を吐くと、スーパーへと足を踏み入れる。


 雄介はいつものように手際よく食材を選び、次々と籠に入れていった。


「こん位でええかなぁ?」

「そっか……なら、今日は俺が材料代を出すよ」

「ええって、気にすんなや」

「いつも食費はお前に出してもらってるし。それに、お前、これからは節約して行かないといけないんじゃねぇのか? 前のように収入がある訳じゃないんだからさぁ」


 望の言葉に、雄介はハッとしたようだ。


 確かに今は前のように安定した収入がある訳ではない。


「そっか……そこのところはホンマに忘れておったわぁ。とりあえず、貯金が尽きないうちに俺も何かバイト探さなぁ、アカンかな?」

「……って、今はまだ授業が楽だけど、いずれ大変になってくるんだろ? だからバイトはしない方がいいんじゃねぇか? 食費は俺が出すしよー」

「んー……流石に、望達にお世話になってる訳にはいかんしなぁ」

「でもさ……」


 望は言いかけた言葉を飲み込む。だが、雄介はすでにバイトをする気でいるようだった。


「どんなバイトがええねんやろ?」


 そんな雄介に、望は意を決したように顔を上げ、彼の目を見つめると、


「あのさぁ、だからさ、その……お前がバイトなんかしたら……お、俺たちの時間がなくなっちまうじゃねぇか……だから、その……お前は……バイトなんかしなくていいんだからな!」


 最後はもうやけくそ気味に語尾を強める望。


 その言葉に雄介は最初目を丸くしたものの、すぐに笑顔を見せた。


「確かに、望の言う通りかぁ。せやな、俺がバイトしてまったら、二人の時間が少なくなってまうしな。ほな、分かった。ホンマ、望達に迷惑掛けてまうけど、しばらくはバイトもせぇへんよ」


 雄介は望の説得に折れ、バイトをすることを諦めたようだ。


 家に帰ると、雄介は早速、今日の夕飯である天ぷらの準備を始めた。雄介という男は器用というべきか、帰宅するや否やすぐに行動に移すのだ。


 その姿を望はカウンター席から眺めていた。だが、じっと座っているだけでは落ち着かなかったのか、「自分も何か手伝わなくていいのか?」という表情で雄介を見ていた。


「なんか、手伝おうか?」


 望が声を掛けると、雄介は顔を上げて笑顔を見せる。


「ほな、手伝ってくれるか?」


 雄介はやる気を見せる人には「一緒にやろう」と声を掛けるタイプのようだ。


「ほな、望には野菜とか切ってもらおうかな?」

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