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ー決心ー86

「な、和也……この事故があったの何時だか分かるか?」

「いやぁ? 情報がねぇから分からねぇよ」

「でもさぁ、俺等が帰ろうとしてた時間だよな?」

「確か、そうだな」


 望と和也は一段落したところで話をしている。


 既に時刻は夜の九時を過ぎていた。


「あ、いや……気のせいならいいんだけど、さっきっから、胸騒ぎがして仕方がないんだよなぁ。今までにこんなことはなかったんだけど……」

「胸騒ぎ? まさか、病気とかか?」


 そう和也はふざけて言ったのだが、どうやら望は本気らしく、


「あのなぁ、こんな時にふざけている場合じゃねぇだろうが……!」


 と望は和也に突っ込みを入れる。しかし、何かを思い出したのか、望の顔が青ざめる。


「もしかして!? 雄介は? 雄介がその電車に乗ってて事故に巻き込まれたとか!?」

「え!? そうなのか!? と、とりあえず……今はまだ患者さんが来る気配がないから、雄介に電話してみろよ! それで、繋がれば、雄介が無事かどうか位は分かるだろ?」

「あ、ああ! そうだな!」


 望は一旦、自分たちの部屋へと向かい、スーツの内ポケットから携帯を取り出し雄介へ電話を掛ける。


 だが、何回かのコールの後に留守番電話サービスに繋がってしまう。


 その後も望は何度も雄介に電話を掛けたが、雄介が電話に出る気配はなかった。





 そして、その頃、雄介は望の思った通りだったのかもしれない。雄介は『電車の追突脱線事故』に巻き込まれていたのだ。


 この事故が起きたのは夕方の帰宅ラッシュが始まった頃。乗客をたくさん乗せた上り列車と下り列車の衝突事故であった。先頭車両は二台とも先頭部分が潰れ、両車両とも二両目以降も脱線していた。


 事故から数時間が経っているにも関わらず、救急車のサイレンは鳴り響き、レスキュー隊も対応に追われている。


 街中にある線路は電車だけではなく、脱線によって周辺の住宅にも被害を及ぼしており、この事故により被害者は相当数いるようだ。


 そう、雄介はこの電車に乗っていた。先頭車両ではなかったものの、雄介はこの事故に巻き込まれていたのだ。

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