「それを、言わなくてもお前の顔を見れば分かる。もう、顔に言うことが書いてあるからな」

「ま、まぁ、そう言わずに聞いてくれよ」

　望は呆れたような顔をしながらも、仕方なさそうに和也が今から言うことを聞くようだ。

「昨日さぁ、俺達……一緒に住めるようになったって行っただろ？　その話でいい部屋見つかったんだよなぁ。ちょっと、部屋はでかめで3LDKあるんだけどさ。しかも、この病院の目の前！　ほら、その窓から見える十階建てのマンションなんだよ！　それで引っ越しは後一週間後！」

「良かったなぁ。そんな近くなら、病院で緊急なことがあっても直ぐに来れるって訳だ」

　そう望はめんどくさそうに言った筈だったのだが、急に和也は真面目そうな声になると、

「それは、少しでも家賃が高くても病院に近い方がいいって裕実と決めたからな。

望の言う通り、病院で何か緊急で呼び出されても直ぐに行ける場所を選んだんだよ」

「そっか……。和也って意外に真面目なんだな」

「意外、じゃなくてー、真面目なのー！　仕事に関しては、かな？　だって、遊びは遊びで仕事は仕事だからな」

　望は和也の言葉に軽く微笑むと、ロッカールームへと消えて行く。

　二人は着替え終え診察室へと向かうのだ。

　それから、いつもと変わらない日常を終えようとした直後、病院内に緊急アナウンスが流れて来る。

『只今、春坂駅周辺において、追突脱線事故がありました。沢山の患者さんがこちらの病院に運ばれて来るとの情報ですので、空いてるスタッフの皆様は、受け入れ体制の準備をお願いいたします』

「……へ?」

　それを聞いた途端、二人は視線を合わせ同時に声を裏返すのだ。

「和也！　行くぞ！」

「ああ！」

　既に二人は部屋に戻って帰宅の準備をしていたのだが、再び白衣に着替え部屋を出て階下にあるロビーへと急ぐ。

　と同時に救急車が大きな音を立てて病院の敷地内へと入って来ていた。

　そして次の瞬間には次から次へと救急車が病院内と入って来て、病院スタッフは対応にあたる。

　望達も無我夢中で対応に当たっていたのだが、望はフッと雄介のことを思い出すのだ。