昼間であれば、太陽の位置で今は何時頃であろうということは予想がつくが、夜という闇に包まれた中では今は何時というのは月でも出ていない限り無理であろう。
だが、今日はあいにく月も出ていない。
そして雄介と歩夢は車両から脱出できないまま、時は流れていく。
やがて雄介たちの車両にもレスキュー隊のヘリコプターだか警視庁のヘリコプターだかマスコミのヘリコプターだか分からないのだが、ヘリコプターが上空でホバリングを始めたかと思えば、誰かがそのヘリコプターから降りてきたようだ。
ゆっくり、ゆっくりとその人物は横倒しになった車両の上へと下ろされ、雄介はその人物と目が合う。
「……望!?」
「その声は雄介だな」
と言ったとほぼ同時に、ヘリコプターからの灯りが丁度雄介を照らし、二人は安心したような溜め息を漏らす。
「って、やっぱり、お前、この電車に乗ってたんだな」
「そういうこっちゃ。まぁ、話は後でにするとして、とりあえず、望……」
雄介は望の手を取ると、
「要救助者を助けに来たんやろ?」
「まぁな……」
「手貸すし、そっから、俺に向かってジャンプして来ぃや」
「ああ、分かった。ありがとう……」
望は雄介の力を信じて、先ほど雄介が割った窓から中へと入ってくる。
雄介は望の体を受け止めると、
「望が来たんなら、もう、ここにいる怪我人は大丈夫って事かもしれへんよな」
「いや……流石に俺だって完璧な人間じゃねぇよ。人間なのだから、ミスはする。だけど、自分のミスなんかで患者さんを死なせる訳にはいかないだけだ」
「せやったな」
雄介が望に向かって笑顔を見せていると、未だに上空でホバリングをしていたヘリコプターから、どうやらもう一人降りてきたようだ。
「雄介……この電車に乗ってたんだな」
「なんや、和也か……」
「そんな呆れたような顔しなくてもいいだろー。俺は望の助手みたいなもんなんだからよー。だから、仕事ではいつも一緒なの!」
「せやったな……」
「しかし、大変な事故だったみたいだな。外じゃ、レスキュー隊があまりにも少なすぎて作業が進まないって言ってるしよ。だから、先に医者たちが車両内に入って、怪我人を診てヘリコプターで搬送させるってことになったんだよ」