「親父に頼めば大丈夫だからな」
「せやったな。望は院長の息子だったんやっけなぁ」
「そういうことだからよ。そういうとこ、何かいいよなぁ」
「せやね……」
雄介は望に笑顔を見せる。
何だか久しぶりの雄介の笑顔に、望は少し安心したのか、一つ息を吐くと、
「やっぱり、家に帰って来て、お前が居ると安心する」
望はそう言うと、無意識なのか、疲れていたのかは分からないのだが、雄介の肩へと寄りかかり目を瞑るのだ。
「……望?」
雄介は優しく小さな声で望の名前を呼んだのだが、望から聞こえてきたのは寝息だけだ。
雄介はその望の寝顔を見て微笑む。
それから、どれくらい経ったのであろうか。陽はいつの間にか天辺の位置から少し下がったところくらいで、望は目を覚まし、目を擦りながら雄介のことを見上げるのだが、目を細めている。
「ん? やっと、目覚ましたんか?」
「あ、ああ……ぅん。んー、何か雄介のことが良く見えねぇんだけど、何で俺、ここに居るんだ?」
「あ、スマン! 望が帰って来てから、いつの間にかここで望が寝てまったから、眼鏡外しておいたんやって……」
雄介はそう言うと、テーブルの上に置いておいた望の眼鏡を望へと渡す。
「何だ……そういうことだったのか」
「よっぽど、疲れておったんやな」
「あ、ああ、まぁな……久しぶりに二日寝てなかったしな」
「やっぱり、そん位寝てなかったんや……。あんだけの事故やったんやもんなぁ。やっぱ、医者って思ってた以上にハードそうなんやなぁ」
「そうなんだよ。雄介の前の仕事は、最高でも一晩寝ないくらいだろ? だけど、俺達の仕事は本来なら休みは不定期だし、二日寝ないなんてしょっちゅうなんだからな……それで、弱音なんか吐いてる暇はねぇしよ。 ま、弱音は吐かねぇけどな。 それに、患者さんを前にしたら、そんなこと思わねぇけどな」
「やっぱ、望は凄いな」
「凄くはねぇよ……当たり前なことをしているだけだしな。これから雄介だって、こういう風になるんだからな!」
望は立ち上がると、雄介の瞳を見据える。
「そうやったな……望のおかげで、もっともっとやる気が出たわぁ。望に追っ付くためにも休んでいる暇が無いって感じがしてきたし、明日からでも学校に行くかなぁ!」