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ー平和ー87

 その裕実の言葉に、雄介は考えた。しかし、さっき雄介が倒した二人は鍵を持っていそうな雰囲気もなく、鍵独特の音もしていなかったように思える。


 ということは、今さっき出て行った二人のどちらかがこの部屋の鍵を持っているということになるだろう。


 ここまで来たのに鍵がないことに気づき、裕実たちを助けることができない悔しさがこみ上げ、雄介はドアを強く叩いた。


 そんな時、雄介の携帯が鳴り響き、雄介が携帯を取ると相手は和也だった。


『雄介! 犯人の二人が帰って来た! まだ裕実たちは助けられてねぇのか?』


 その言葉に雄介の顔が強張る。もうすぐ、あと数人の犯人たちが帰ってくるということは、また雄介は戦わなければならないということだろう。


 雄介は決して有段者ではない。ただ力が普通の人よりも強いだけで、戦い方など知らないのが現状だ。それに、ここにいた二人はどうにかなったものの、もし次に入ってきたメンバーが有段者か何かで雄介がやられてしまえば、裕実たちを助けるどころではなくなってしまう。


「ホンマかぁ!?」

『そんなこと嘘ついてどうすんだよー!』


 雄介は自分を落ち着かせるために深呼吸をすると、さっき犯人たちを倒したように体当たりでドアへと体をぶつけた。


 ドラマなどで鍵の掛かった部屋を体当たりで開けるシーンを思い出したのか、雄介は和也との携帯が繋がったまま、しばらく体当たりを続けた。すると、どうにかドアを開けることができたようだ。


 雄介の口から安堵のため息が漏れた瞬間、背後から二人の気配を感じた。そしてそのうちの一人が、雄介の背後にすでに接近していたようで、雄介はその人物の存在に気づいていなかった。


 だからこそ、その人物に背後から羽交締めにされてしまう。


「雄介さん!」


 裕実が悲鳴のような声を上げた瞬間、朔望が急に動き出し、


「雄兄さん! しゃがんで!」


 朔望にそう言われた雄介は次の瞬間、しゃがみ込んだ。すると、朔望は犯人の顔をめがけてパンチを食らわせた。


 まともにパンチを受けた犯人は、雄介の後ろで床に倒れ込んだ。


「あと一人やな……」


 雄介と朔望が最後の一人の犯人に目を向けると、それは女性だった。


 その女性を見た朔望は、


「やっぱりか……君はやっぱり、犯人たちの仲間だったってわけね」


 その朔望の言葉に、その女性は答える。


「違う! 私はあなたたちと一緒で、あの銀行強盗で人質になった一人よ!」

「じゃあ、今までどこに監禁とかされてたのかなぁ? それに、あなたはこの犯人たちと一緒に行動してたじゃないのか?」

「それは、この犯人たちがいい人たちだったからよ! 女性の私だけは別の部屋に監禁されていたのだから!」

「そう……?」


 朔望が体から力を抜いた瞬間、その女性から殺気を感じたのか、朔望は再びその女性に視線を向けた。

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